綿雲の浮かぶ空を見上げる

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葉の緑と空の青のコントラスト

7、8月に夏季休暇を長くとる人の多いフランスでは、夏前の時期は日本の年末のよう。ちょうど20年を迎えたフランスの生活で、この時期のせわしなさには慣れました。気持ちよく晴れた日が続くので、移動中には気づくと空を見上げています。朝は、大空の端まで伸びる白龍のような雲を見て、私も伸びやかな心地になり、夕方は綿雲を通して、朱色の日光が照らすのを見てクールダウンしています。
パリ市庁舎もオリンピックマーク
パリ市庁舎もオリンピックマーク
視線を目の前に戻せば街路樹のプラタナスの作る影が濃くなっています。5月の月の名前Mai(メと発音)はギリシャ・ローマ神話の豊穣の女神マイア(Maia)が由来です。伸びやかに枝を伸ばし、明るい緑の葉を茂らす木々から、流れ出し溢れ出すエネルギーを感じるこの季節を慈しみたいです。

加奈子さん

今回は、パリに2軒あるTaka & Vermo*というチーズ店と、写真のマレ店のオープニングスタッフとして関わるチーズ熟成士、岩田加奈子さんを紹介します。また加奈子さんが作る鮮やかな色とカッティングが目をひくチーズプレートやご主人の幸樹さんが作るワインもあわせてご覧いただきます。
 
*Taka & Vermo Webサイト : https://takavermo.fr/
共通の友人みっちょんに紹介されて知り合った加奈子さんは、私と同郷で大阪のご出身。加奈子さんのご主人のがんちゃんこと岩田幸樹(こうき)さん*は南仏ラングドック地方でワインを生産しており、共にフランスの伝統食品に携わるご夫婦です。
5月の最初の週末に、パリ市内で開催された幸樹さんのワインを味わう試飲会に参加したのが加奈子さんとの初対面でした。数日後に彼女が勤めるマレ地区のチーズ店を訪問し、店内の100種ほどのチーズから何を選ぶか相談にのってもらい3種類のチーズを買いました。
写真の左、4分の1にカットしたバステリカチュウというコルシカ島の羊のチーズは初めて聞くチーズです。手元のチーズ辞典にも載っておらず、それほど一般的なチーズではなさそうです。
 
*岩田幸樹さんのYou Tubeチャンネル「ボンジュールがんです」: https://www.youtube.com/@bonjourgandesu
Taka & Vermo マレ店のスタッフの加奈子さんとマチューさん
Taka & Vermo マレ店のスタッフの加奈子さんとマチューさん
左からバステリカチュウ、カマンベール、ゴルゴンゾーラ、イチジクの香りのクラッカーをあわせて
左からバステリカチュウ、カマンベール、ゴルゴンゾーラ、イチジクの香りのクラッカーをあわせて

羊乳チーズ バステリカチュウ

コルシカ農業会議所のサイトには、「コルシカ島(南部)のバステリカとボコニャーノの生産者が、自家飼育の雌羊の生乳のみを使用して作るナチュラルな表皮のソフトチーズ」とあります。コルシカ島のチーズと言えば、ブロッチュという乳清で作ったおぼろ豆腐状のAOPチーズがとても有名です。バステリカチュウはブルビ(羊乳のチーズ)独特のオイリーな感じはなく、「山羊のお乳も入っているのかな」、と思ったほどバランスのとれた味わいです。コルシカ島のオリーブ果樹園を想像して黒オリーブがたっぷり入ったパンに、バステリカチュウを乗せ、幸樹さんのワインPino’c(ワ・シュッド・キュヴェ・ピノック2022 赤)と一緒にいただけば、旅に出たくなります。パリの人が一斉に南へ進路をとるヴァカンスの季節はまだ先なのに!
オリーブたっぷりのパンにバステリカチュウを乗せて
オリーブたっぷりのパンにバステリカチュウを乗せて
がんちゃんこと岩田幸樹さんのワイン 赤いラベルが Pino'c
がんちゃんこと岩田幸樹さんのワイン 赤いラベルが Pino’c

Taka & Vermoの創作チーズ

加奈子さんが用意した試飲会でのチーズプレート
加奈子さんが用意した試飲会でのチーズプレート
加奈子さんによればTaka & Vermoは創作チーズが得意とのこと。確かにレモンの原種ともいわれるセドラ(Cédrat)とカラスミで風味をつけたブリアサヴァラン(写真の左下、クリーム色のチーズに挟んだ黄色いカラスミの層が見えますか)であったり、山椒でアクセントをつけたカンタルだったり、風味の取り合わせに工夫があって、持ち帰りたくなるチーズがいくつもありました。そんな創作チーズの一つが、写真の左寄りの緑の葉で包んだサンマルセラン。緑色の葉はクマニラ(ail des ours アイユ・デ・ウルス)という植物で、にんにくに似たほのかな香りがサンマルセランの優しさによく合います。
シェーブルの熟成ゴーダ Taka & VermoのHPより写真をお借りしました。
シェーブルの熟成ゴーダ Taka & VermoのHPより写真をお借りしました。
写真の左、一口サイズのかけらに割ったのはシェーブルのゴーダです。試飲会に一緒に行った家族3人の頭の中に「!」マークが立ち上がったチーズでした。ゴーダはオランダを代表するチーズで牛乳のものがよく知られていますが、山羊乳の熟成ゴーダは、一年以上は熟成していると思われポロポロした食感とキャラメルや蜂蜜のアロマが生まれています。苦手な方もいる山羊チーズのクセはゼロ。これは次に行った時に買って帰ろうと思っています。この出会いをきっかけに自宅で「チーズ会」をする企画も生まれました。今後のコラムでも新たな人や伝統食品、特にチーズとの出会いをご紹介できたら幸いです。
五条ミショノウさやか

2004年からパリに在住。 家族は夫と娘が二人。 業界誌や講演録などの英日翻訳をしています。