縄文を知る旅と チーズづくしのイタリア料理

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青い森

4月中旬から3週間、日本に帰国しました。滞在中に青森と九州へ旅行に出かけ、北から南にかけて長い、日本列島の自然と歴史をダイレクトに感じました。青森旅行の前半には、友人と弘前、五所川原から八甲田山を訪れ、後半は一人旅をして、太平洋側の七戸、八戸、岩手県の一戸まで足を伸ばしました。

青森の県名の由来は、「青々と茂る松の森」。その名の通り、着陸前の機上からは青々とした森が眺められ、大きな弧を描く、輝く陸奥湾が私を迎えてくれました。

推定樹齢90年!弘前城本丸の枝垂れ桜
推定樹齢90年!弘前城本丸の枝垂れ桜

春のこころは

到着した夜に訪れた弘前公園では、幽玄な夜桜に「うっとり」を超えて、涙がブワッと吹き出しました。10数年ぶりに日本で見る桜です。
「世の中にたえて桜のなかりせば、春のこころはのどけからまし」と、平安時代の歌人在原業平は詠みました。咲きはじめから散るまでの短期間に日本人の心を掻き立てる花は、桜をおいて他にありません。
弘前城の西壕
弘前城の西壕

青森の縄文遺跡

この旅の間、青森と岩手の縄文遺跡を旅のテーマに、文字を残さない代わりに、土偶や貝塚で生活の様子を今に伝える縄文の人々=私たちの先祖に、思いを馳せてまいりました。コロナ禍の間にした読書から「にわか縄文、土偶ファン」になりましたが、旅の後も「ワクワク感」は続いています。縄文の人々を含め、古代の日本人の生活の様子や価値観を、発掘品や読書から知るのが楽しい。皆さんも、下の写真「鼻曲がり面」のような、不思議な面を作った縄文の人々の感性を見つけに、遺跡に行ってみませんか?
岩手県一戸 御所野縄文博物館 所蔵 蒔前遺跡出土「鼻曲がり面」(重要文化財)
岩手県一戸 御所野縄文博物館*所蔵 蒔前遺跡出土「鼻曲がり面」(重要文化財)
*御所野縄文公園 https://goshono-iseki.com/

イタリアン × チーズ

日本に滞在中、本コラムの担当者Hさんからメールを受け取りました。コラムで取り上げるテーマやチーズを尋ねられた私は、すこし戸惑いました。「パスタと合わせたり、おつまみに切って食べたパルミジャーノ・レッジャーノ以外、何か食べただろうか?」と。その前週に九州、天草の崎津教会や長崎の浦上天主堂で神に感謝を伝えたからか、東北と九州に滞在中、連日神社に立ち寄って柏手を打っていたからか、「チーズ」は目の前に降りてきました。翌日のディナーにイタリアとフランスのチーズが登場したのです。天の配剤とはこういうことを指すのでしょう。

MySでチーズづくし

大阪府三島郡島本町にある「MyS(マイス)」は、オーナーシェフの菱田さんとサービスを担当される奥様のお二人が、一軒家をレストランに改装したゆったりした空間で、イタリアンのランチとディナーを提供しています。こちらでチーズを使ったコースディナーをいただきました。
前菜からデザートまでの6品すべてに、リコッタ、ルブロション、ペコリーノ、グリュイエール、ゴルゴンゾーラ、マスカルポーネという、イタリアとフランスを代表するチーズが使われ、パスタ、魚、肉、野菜の味わいを引き立てています。
下から焼いたポレンタ、こがしネギをリコッタとオリーブオイルで和えた牛タン 黄色いカブのピクルス、ポーランド産キャビアを乗せた前菜

下から焼いたポレンタ、こがしネギをリコッタとオリーブオイルで和えた牛タン
黄色いカブのピクルス、ポーランド産キャビアを乗せた前菜
ポレンタと牛タンを、リコッタがうまくつなげた前菜です。「リコッタだけではあっさりしすぎているから、こがしネギでコクを足しました」とシェフ。調整の技ですね。
新ごぼうのピューレを添えて 低温調理した丹波の地鶏、ルブロション、無農薬野菜のサラダ、赤カブ、エディブルフラワー
新ごぼうのピューレを添えて 低温調理した丹波の地鶏、ルブロション、無農薬野菜のサラダ、赤カブ、エディブルフラワー
コースの初めに、味覚を目覚めさせるサラダ仕立ての一品。熟成の若いルブロションAOPのミルクの優しい味が、薄くスライスした低温調理の鶏肉とよく合います。新ごぼうのピューレをソースにいただく、春風のように軽やかなサラダでした。

常識破り

「城陽」抹茶入りタリオリーニのカチョエぺぺ ホタルイカ、赤エビのソテー、レモンの泡
「城陽」抹茶入りタリオリーニのカチョエぺぺ ホタルイカ、赤エビのソテー、レモンの泡
ホタルイカ、赤エビを使ったカチョエペぺ。カチョはチーズ、ぺぺは胡椒の意味で、元はチーズと胡椒のシンプルなパスタ料理を指すそうです。タリオリーニには、削ったペコリーノとレモン風味の泡がかかっています。柔らかなホタルイカと甘くジューシーな赤エビに、旨みを加えるペコリーノ。ほうれん草のかすかな苦味が、全体をひきしめます。その夜来ていたゲスト全員が、「山盛り食べたい!」と思ったはず。そんな大満足なパスタでした。
サワラのグリル、グリュイエールのモルネーソース スナップエンドウにからめているのはハーブマスタード、アンチョビ、ケッパー、生ハムのゼリー

サワラのグリル、グリュイエールのモルネーソース*
スナップエンドウにからめているのはハーブマスタード、アンチョビ、ケッパー、生ハムのゼリー
*モルネーソース ベシャメルソースと煮詰めたブイヨンをチーズとバターでまとめたフレンチのソース
食事後、オープンキッチンで後片付け中の菱田シェフ* にお話を伺いました。その時「魚や魚介類にチーズを合わせないという『常識』をあえて破ってみています」とおっしゃいました。この「常識破り」を、彼の料理を愛して通われるお客様のために、ぜひ続けてもらいたいです!味、食感、色の足し算、引き算、掛け算、火の通し方、季節感、演出力など統合力を持つプロのお料理はすごい、と改めて思いました。
 
*オーナーシェフの菱田雅己(ひしだ まさき)さんインタビュー クックビズ総研HP
アンガス×和牛のステーキ たけのこのハーブオイルマリネ ソースに使っていたチーズは、聞きそびれました(汗)
アンガス×和牛のステーキ たけのこのハーブオイルマリネ ソースに使っていたチーズは、聞きそびれました(汗)
MyS(マイス)はJR京都線山崎駅から徒歩15分、またはタクシーでワンメーターほどのところにあります。山崎駅へはJR京都駅からも大阪駅からも2、30分です。厨房の焚火オーブンも駆使し、イタリアで修行を重ねられた菱田シェフ* がみごとな技術で料理されています!

シェフのチーズの使い方は、ティラミスやリコッタを使ったケーキ以外、自宅でまねるのはハードルが高い。そうは思いつつも、ルブロションと鶏肉のサラダは、試してみたいと思っています。夏に向かい、太陽がもたらす命の光が溢れる季節ですね。皆さまが五感と手足で季節を感じ、健康でいられますよう願っています。Salute! 乾杯!


五条ミショノウさやか

2004年からパリに在住。 家族は夫と娘が二人。 業界誌や講演録などの英日翻訳をしています。