真冬のストライキ
: UPDATE /長引くストライキ
昨年の12月5日から1月末の現在まで、年金制度改革に反対するストライキ「グレーヴ」(Grève)が続いています。当初は、電車、メトロ、バスなどがほぼ完全に運休し、その後、朝夕の通勤時間帯の運転が再開しましたが、間引き運転のためバスの車内が人でいっぱいになり、乗るに乗れないなど不便が続きました。
またストライキ中の労働者には給料が支払われません。その間の生活費をどうするのかと周りに聞くと、連帯基金という意味の「ケス・ド・ソリダリテ」(Caisse de solidarité)というシステムがあるそうです。労働組合で積み立てた資金をストライキ中の従業員に対し、給与の補填として支払っているのです。
ケス・ド・ソリダリテに募金を呼びかけるポスター。
(左)フランス革命を意識?(右)ポップアートのロイ・リキテンシュタイン風
ようやくこの数日、メトロもバスもほぼ元どおりになってきました。生活への影響が大きいので早く終わって欲しいと願う一方で、赤字の年金制度が崩壊する懸念や改革の必要性はフランスだけでなく、日本を含む様々な国々で進行中の問題ですね。
今一番オススメのチーズは
このようにパリの12月から1月はストの混乱のうちに過ぎて行きました。そんな中で、クリスマスから大晦日は数日休暇をとって、ストの影響で長時間かかる移動や渋滞のストレスから解放された人が多かったようです。
田舎の家のクリスマス
このコラムを読んでくださる方はご存知のように、フランスではお祝いの季節の食卓にチーズが不可欠です。大晦日の30人が集まるホームパーティに持って行ったチーズ盛り合わせの中で、モンドール(Mont d’or)を押さえて一番の人気だったチーズがあります。それはトリュフを挟んだブリヤ・サヴァラン(Brillat-Savarin)の「ブリヤ・トリュフ」です。先週末、「今、オススメのチーズを教えて欲しい」と友人から聞かれた際に教えたチーズでもあります。
細かく刻んだトリュフを挟んだブリヤ・トリュフ
ブリー・トリュフ
ブリヤ・トリュフはフロマジュリー・ドートイユ(La Fromagerie d’Auteuil)で加工したチーズで、12月に多く作っているそうです。
トリュフ入りチーズには、2枚目の写真のようにブリーで作ったものもあり、味わいは甲乙つけがたいのです。どちらかといえば、ブリヤ・サヴァランは品の良いクリーミーさがよりトリュフの風味を引き立てていると、応対した若い熟成士さんと意見が一致しました。脂肪分が23%のブリーに比べてブリヤ・サヴァランは40%と2倍近いのですが、「(困ったことに)だからこそおいしく感じるんです」と熟成士さんは苦笑まじりに話していました。
一手間加えたチーズやバター
トリュフ入りチーズと言えば、4年前のコラムで紹介して以来、コラムにも時々登場しているトリュフ入りペコリーノ「モリテルノ・アル・タルトゥフォ」(Moliterno al tartufo)*1にも触れなければと思うのです。フランスは牛乳の白カビチーズにトリュフを合わせ、イタリアは羊のチーズにトリュフを合わせるんですね。トリュフとチーズという個性の強い食材同士がこんなに合うなんて、この取り合わせを思いついた人の味覚に拍手です。
5~8ヶ月熟成させたペコリーノに黒トリュフのペーストを注射するように加えてある
「モリテルノ・タルトゥフォ」(Moliterno al tartufo)
チーズにトリュフを合わせてトリュフ・チーズを作るように、別の食材を加えたバターがあります。写真の左から二番目は海藻入りバターです。魚や貝のお料理には当然合いますが、私はバゲットや茹でたじゃがいもに乗せて磯の香りを楽しんでいます。
(両端)唐辛子とニンニク入り(左から二番目)海藻入り
(真ん中)つぶ塩入り(右から二番目)麦芽入りバター
シーズンを通して演劇を楽しむ
コメディ・フランセーズのメイン劇場 サル・リシュリュー
朝起きると外がまだ暗い一月のパリ。一月下旬の日の出時間は8:30くらい、日の入り時間は午後5:30くらい。夜が長い季節は、夜を楽しむ季節でもあります。
2019年秋からコメディ・フランセーズ(Comédie Française)に、家族で定期的に観劇に出かけています。コメディ・フランセーズは太陽王ルイ14世が、当時パリにあった2つの劇団を統合する形で作らせた1680年から続く劇団です。
作品そのものの良し悪しとはあまり関係なく、劇中会話やセリフの表現が外国人の私にとって理解しづらい作品もありますが、高い確率で観られてよかったと思う作品に出会えます。特に俳優の演技に毎回魅せられています。回数を重ねると、「あ、この俳優は以前観た別の劇であの役をしていた人だ」なんて気がつきますし、違う作家、違う時代、違う国の様々な人物を演じ分ける俳優のすごさを生で見られるのがたまらない喜びになってきます。
下の写真は19世紀末のボードヴィルの劇作家フェドーの作品「耳にノミ」(La Puce à l’oreille)の舞台です。浮気疑惑をきっかけに次々と騒動が起こり、観客は大爆笑につぐ大爆笑で、吉本新喜劇も真っ青な、ドタバタ喜劇。
パリの劇場では親に連れられてきた小学生を毎回見かけますし、18世紀のモリエールの作品を国語の授業で勉強したりもします。先生の引率でクラス単位で観劇したりと、子どもの時から「伝統芸能」でもある演劇に親しみを持っています。フランスの演劇は、オペラ、バレエとともに、日本での歌舞伎や狂言、能のような位置付けでもありながら、知るべき約束事が少ないのでとっつきやすいと言えましょう。
3月はシェイクスピアの喜劇「十二夜」を観に行く予定です。400年ほど前に書かれたお話なので、話の流れと有名なセリフは予習していこうと思っています。
現在上演中のボードヴィル劇作家ジョルジュ・フェドー「La Puce à l’oreille」(耳にノミ)の舞台装置
今の気温は3℃。暖冬でクローゼットにしまい込んだままだったシープスキンのロングブーツを出しました。ニットの帽子や手袋も必須です。日本はパリに比べると気温は高めですが、体調を崩しやすいこの時期、「これをつければ安心」な最暖グッズを活用して暖かさを保ち、それぞれの「冬の楽しみ」を満喫してくださいね。本年も当コラムをよろしくお願いいたします。