スパイス・アップ!
: UPDATE /極みの人
食事とお酒、器に凝っている友人がいます。彼女は好きなものに対しての熱量と集中力が高く、いつの間にか「極み」に達しているような人です。
一見コレクターにみえますが、そうではなく、集めて使う人なのです。
例えば、スパイス。
幅80 cm、奥行き30cmのキッチンの大きな引き出しの中いっぱいに、こんなスパイスが収納されています。
プジョーの赤いスパイスミルで、彼女は数種類のコショウをブレンドして挽いています。
おいしい食材や店、美しい器、面白い本などの知識を人と分かち合うところ、そして一つ一つの説明を惜しまないところが、彼女をユニークな存在に高めています。
友人のサークル内で彼女の影響は大きく、対象への愛情があふれる説明を、皆いつも幸せな気持ちで聞いています。
私は、ミルの買い替えなどキッチン周りの道具を「愛着を持って長く使えるものに変えたい」と思うようになりました。
小さな変化が生活をスパイス・アップ =「より面白くする、あるいは趣を添える」することを彼女から教わった気がします。
秋は夕暮れ
「秋は夕暮れ。夕日のさして山の端いと近うなりたるに」と平安の天才エッセイスト清少納言は書きました。
日が短くなり、朱色から濃い紫までのグラデーションに息を呑む夕暮れが見られる季節です。
夏バテ気味の体の疲労回復に、チーズは効果的な食べ物です。栄養をエネルギーに変える働きをするビタミンB2や筋肉の疲労を回復するタンパク質が豊富です。
小さい頃、チーズがおやつだったのですが、理にかなったおやつだったなとフランスに来てから気がつきました。
左から
サン・ネクテール Saint-Nectaire
ガプロン アイユ・エ・ポワヴル Gaperon ail et poivre
ウ・マッキオーネ U MACCHIONE またはブラン・ダムール Brin d’Amour
モテ・シュール・フォイユ Mothais sur feuille
サン・ネクテール
ほっぺたが落ちるほどのルブロション・フェルミエ*1とトム・ド・サヴォワを、コラムを交替で書く深作さんから、春ごろにいただきました。
それ以来、こういった山のチーズがますます好きになっています。ルブロション同様、サン・ネクテールもおいしいです。
ルブロションと小さめのサン・ネクテールは同じような大きさで、ルブロションの表皮は白っぽいですが、サン・ネクテールは白カビに灰色と黄色がかった色です。
上の写真の切り口から想像できる通り、サン・ネクテールはなめらかな口当たりで、コクがあります。たくあんのような香りも少し感じるチーズです。
品名 | サン・ネクテール フェルミエ |
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種類 | セミハードタイプ |
産地 | オーヴェルニュ地方 |
原料乳 | 生乳(無殺菌乳) |
直径 | 21cm、小さいものは13cm |
*1:ルブロションについては
深作さんの2019年3月のコラムをご覧ください。
ガプロン アイユ・エ・ポワヴル
今回おすすめするのは、ニンニクの風味と黒コショウが入ったガプロンです。「スパイス・アップ」で魅力がさらに高まったチーズの一つです。
「ビールのおつまみに最高。以上!」で紹介を終えようかとも思いましたが、ガプロンが皆さんの記憶の片隅に残るようストーリーを紹介しましょう。
このチーズが生まれたオーヴェルニュ地方のリマーニュは、世界遺産に選ばれたシェヌ・デ・ピュイ火山群のある土地です。
磯川まどか著「フロマージュ」のガプロンのところに、こんなストーリーが紹介されています。
昔、山の暮らしは貧しく、バターを作った後のバターミルク(オーヴェルニュ方言でガプ)を無駄なく使うガプロンが生まれました。
農家では作ったチーズにわら紐をかけて、暖炉脇に吊るして燻し、熟成させました。吊るしたチーズの数がその家の豊かさのバロメーターにもなっていたそうです。
品名 | ガプロン アイユ・エ・ポワヴル(ニンニクと黒コショウ入りガプロン) |
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種類 | セミハード |
産地 | オーヴェルニュ地方 |
原料乳 | 生乳(無殺菌乳) |
直径 | 8-9cm 高さ8-9cm |
ウ・マッキオーネ または ブラン・ダムール
コルシカ島のマキ(灌木)のハーブをまぶした羊のチーズは、フランスでもポピュラーなチーズです。
U MACCHIONE(ウ・マッキオーネ)というコルシカ語を発音できずにいたら、チーズ店のお兄さんが「ブラン・ダムール」(恋の始まり)という名前もあるよと言いました。
ブランBrinは若枝、若木という意味があり、そこから派生して少量のという意味があります。
ですから、恋の芽生え、恋の目覚めと訳してもいいですね。熟成期間はごく短く、羊のミルクの甘さにかすかな酸味があるフレッシュなチーズです。
ローズマリーやサリエットのハーブの風味が、爽やかさを引き立てています。
品名 | ウ・マッキオーネ |
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種類 | シェーブル |
産地 | コルシカ島南部 |
原料乳 | 羊乳 |
直径 | 大:10-12cm 小:6cm |
芝居の秋
7月にギリシャのコルフ島を訪れ、コルフ・アジア美術館で東洲斎写楽が描いた歌舞伎役者の扇子絵を見ました。
写楽は10ヶ月しか活動しなかったので現存する肉筆画で、真作と認められたものは非常に珍しいそうです。
9月から来年の春にかけて、歌舞伎と同じ舞台芸術の演劇をコメディ・フランセーズ*2で数多く観る予定です。
皆さんはどんなアートを楽しむ秋になるでしょうか。
写楽の肉筆扇面画 この夏訪れたギリシャ、コルフ島「アジア美術館」にて
*2:コメディ・フランセーズ 1680年に創立したフランスの劇団。パリ一区のパレロワイヤルに本拠の劇場がある。