スキーバカンスで出会えた
~人も牛もウェルネスが味を決めるルブロション・ド・サヴォア~
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スキーバカンスで出会えた
~人も牛もウェルネスが味を決めるルブロション・ド・サヴォア~
私たち家族も今月スキー旅行へ行ってきました。
スキーバカンスの由来は冬季オリンピック
スキーバカンスは毎年違う日付で始まるのが特徴です。フランス全土を3つのゾーンに分け、2月上旬から3月中旬の間のローテーションで2週間のバカンスが、1週間ずつずらして始まります。
これは車の渋滞とスキー場への旅行者の集中を緩和すると同時に、旅行者の流れをより効率的にし、冬の観光地の地域経済効果を高めることが目的です。
今年、パリ地域は遅めで2月23日から3月10日まででしたが、来年は2月8日から2月23日までと言った具合です。このようなバカンスとシステムができたきっかけは1972年のグルノーブル冬季オリンピックだそうです。
フランス元祖スキーリゾートの町、ムジェーヴ
私たち家族が行くスキー場はフレンチ・アルプスのオート・サヴォア県、ムジェーヴです。美しいモンブランの麓に広がる約450キロの滑走距離を誇ります。
初心者からハイレベルのスキーヤーが楽しめる様々なコースがあります。絶景の中をパラグライダーで楽しむ人々の姿も見られました。標高が高いので、今年のように3月に入り、しかも異常気象で日中18度というような時でもスキーを楽しむには十分の雪があります。
ムジェーヴがのどかな農村からフランスが誇るスキーリゾートに生まれ変わるのは第一次世界大戦後です。スイスの名門サンモリッツに負けない高級スキーリゾートをフランスにもと町おこしを始めたのがきっかけです。
1933年にはフランス初のスキー用ロープウェイが建設されました。1937年の世界選手権では、この町の出身者であり、フランス・スキー術の生みの父でもあるエミール・アレがアルペン3種目で金メダルを獲得し、この町の知名度がますます上がりました。
スキーバカンスの楽しみのひとつは冬のチーズ料理です。オート・サヴォアはチーズ料理の本場なので、日中雪を楽しんだ後、地元の美味なチーズを味わいながら体を温めるのはスキーバカンスの醍醐味でもあります。
アルリー渓谷はルブロションの名産地
ムジェーヴの位置するアルリー渓谷はルブロションの名産地です。ルブロションの歴史は8世紀まで遡ります。当時、チーズ農家はすべて小作人で地主に搾った乳の生産量に比例した小作料を支払わなければなりませんでした。納める負担をなるべく減らすために測定日に搾乳量を抑え、検査人が去ってから再度搾ることを意味する「reblochait(ルブロシェ)」という方言が名前の由来です。
ルブロションは、アボンダンス、モンベルアルド、タリーヌ三種の牛からとれた生乳で作られます。
表皮はピンクまたはオレンジ色がかり、中は柔らかくクリーミー。日本人好みのやさしくまろやかな味で塩分も控えめですが、37度以上の加熱処理がされないので、生乳に自然に存在する細菌叢が破壊されず、深い香りを出します。
(左)ルブロション・フェルミエ。中央右上にうっすら見える影は製造過程で挿入される緑の食用ディスク。
(右)ルブロション料理の代表タルティフレット。ポテトとベーコンのグラタン料理で、豪華なものは、半分に切ったルブロションをそのままのせて焼いてあります。
品名 | ルブロション・ド・サヴォア AOP |
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種類 | セミハードタイプ |
産地 | オート・サヴォア地方 |
原料乳 | 生乳(無殺菌乳) |
直径 | 14cm |
レ・モンタニヤールの人にも牛にも優しい新酪農法
ムジェーヴからわずか5キロのとなり町、コンブルーに、子供も楽しんで見学できる酪農牧場があると聞き、早速家族で見学に行ってきました。
先祖代々、この土地に住み、祖父母の代から本格的なルブロション作りを始められたというレ・モンタニヤール牧場のデルフィン・ソケさんが私たちを迎えてくれました。
現在では、75頭のアボンダンス牛の乳から生産していますが、2010年に大火災にあい、すべて失われたそうです。しかし、この悲劇にめげず、これを転機にデルフィンさんが目指したのは最新技術を使った酪農です。
この牧場の大きな特徴はその搾乳技術です。現在ほとんどの酪農家は機械を使って朝晩決まった時間に搾乳を2回行います。しかしデルフィンさんの牛たちは、乳が張ると搾乳ロボット用の列に並びます。
順番が回ってくると、牛の首輪をスキャンして最後の搾乳から8時間以上たっていることが確認されるとロボットが搾乳機をはめ、搾乳します。24時間対応なので、牛一頭一頭のバイオリズムが尊重され、牛のストレスも抑えられ、牛乳の質も良くなるのです。
もちろんデルフィンさんたち酪農家の手間も省かれます。ロボットというと一見、非人間的な印象を受けます。しかしこのような素晴らしいロボット技術を生かすことにより、人間だけでなく牛のウェルネスも向上させることが可能なのだと目から鱗でした。美味しいチーズ作りの背景にはこのようなノウハウがあったのです。
デルフィンさんが注ぐルブロション・フェルミエへの愛と情熱
ルブロションは、一つの群れの牛からとれた生乳のみから作られた農家製のフェルミエと工場製のレティエの2種類に分かれます。
レ・モンタニヤール牧場で作っているルブロションはフェルミエです。フェルミエがレティエと異なるもうひとつの特徴は、すべての製造過程が昔からの手作業で行われることです。
また、レティエに使用される牛乳が加熱されるのに対し、フェルミエには加熱過程は一切なく、搾られた乳がまだ温かいうちに加工しなければなければなりません。
デルフィンさんの牧場では毎朝5時半から7時の間に搾乳された牛乳のみがその日のチーズ作りに使用されます。
保存に冷蔵が必要な、その他の時間に搾れたもの、または一週間で唯一デルフィンさんが仕事をしない日曜日の生乳は、契約先の生協に引き取られ、ルブロション・レティエなどに使われます。
デルフィンさんのように、酪農家がチーズ製造の最初から最後まで手掛けるフェルミエチーズをレティエと見分けるのが食用ディスクです。
ルブロションのAOP製品の印であり、トレーサビリティを保証します。ミルクタンパク質からできており、固まった乳を型に入れる段階で挿入されます。
フェルミエは緑でレティエは赤いディスクが使われ、各農家の登録番号と生産時期が記されています。
農業国であるフランスでも1日一人の割合で農家が減っていると言われるこの時代、酪農家の道は決して易しいものではありません。デルフィンさんが昨年休みをとった日数はわずか5日とのことでした。
AOP基準は高く、牛の品種だけでなく、牛が食べる干し草すら原産地産でなければなりません。例年牧場の敷地で刈ったほし草で冬を越すのですが、今年は悪天候のせいで、ほし草の蓄えが底をついてきました。足りない分はオート・サヴォアの他の農家から購入しなければならないそうです。
それでも自分の牧場を見せてまわってくれるデルフィンさんの目には常に輝きがあり、そのエネルギッシュな姿にはその土地と酪農への愛と情熱を感じずにはいられませんでした。子供たちにもこのことはよく伝わったようで、「デルフィンさんってすごいね!」と感心していました。
見学の最後は、デルフィンさんのルブロション試食です。口の中でとろけるチーズの味にはアルプスの雄大な自然の恵み、そしてその中で大切にされる人と牛のウェルネスが凝縮されているような気がしました。