どんなに強い風が吹いても
: UPDATE /
セーヌ川に立つ自由の女神
パリ市長の訪日
昨年のテロ以降、日本からパリへの観光客が激減したのをご存知でしょうか。未だフランス全土が非常事態宣言の中にありますが、2月末姉妹都市の東京をアンヌ・イダルゴ パリ市長が訪問しました。フランス大使館公邸での記者会見で「日本の観光客の皆さん、フランスに戻ってきてください」とアピールする様子をニュースでご覧になられた方もおられるでしょう。
イダルゴ市長のツイッター*1も訪日前の10日間ほどは日本語に訳されていました。ツイートの内容は、あらかじめ準備されたとみられるパリの観光地の安全PRに加え、短い日本滞在中の様子もよく伝えていました。一方でフランスのメディアの伝え方は、市長の訪日は11月のテロ以降20%減った日本人観光客に戻ってきてもらう作戦のためで、要は、日本人は1日一人当たりホテル宿泊費用に加え205ユーロも使う上得意客であるから戻ってきてほしいというものでした。やっぱりマネーなんですね。
魅力のある国や都市が世界にはたくさんあるなか、同時テロ以降「安全」にクエスチョンマークがついたパリに日本からの旅行者が戻るのはいつになることかと思っていたら、パリの日系旅行会社や日本航空の社員が家族ぐるみでエッフェル塔からセーヌ川の対岸のトロカデロ庭園で清掃活動と桜の植樹をしたという記事*2を産経のネットニュースで読みました。フランスのメディアでも報道があったそうです。平和なパリのPRということで。つい最近、日本からの旅行者が減ったので観光ガイドの仕事がありませんという女性に出会ったばかりだったので、日本人旅行者を相手に仕事をしている方には苦労が続いていると思います。
たゆたえども沈まず FLUCTUAT NEC MERGITUR
先ほど触れたパリ市長のツイッターのページの上にラテン語でFLUCTUAT NEC MERGITURと表示があります。さらに帆船をあしらったパリ市の紋章。9世紀にヴァイキング(ノルマン人)に襲撃されても、15世紀百年戦争でイングランドに支配されても、16世紀末に宗教改革の弾圧を受けても、18世紀のフランス革命で国が崩壊の危機に瀕しても、20世紀の2度の大戦という荒波を乗り越えて、今なお沈まないのがパリという都市なのでしょう。「どんなに強い風が吹いても」を今回のコラムのタイトルにしたのは、パリがこれからも帆をいっぱいに張って進み続けるイメージに希望を託しました。
個人的にはパリに来る予定のある日本の友人、知人からこちらの様子を聞かれて「今パリに来ても大丈夫だよ」と言った方がいいのか、正直なところためらいます。実際パリの住民は日常生活を取り戻しましたし、本人は気にせず来るとしても、日本で帰りを待つご家族が心配されるのではないかと思うから。
その答えは出ないままですが、パリだけでなく世界的な規模で都市型テロが起こる時代に入った現在「自分自身で身を守るという意識を常にどこにいても持ってね」とパリに来る友人にはアドバイスしたいと思います。普段から会話の中で子供達にも例をあげて話しています。パリの住民の多くが日常生活を取り戻し、外出を楽しんでいるように、皆さんもパリにいらしたら、美術や音楽、食事もスイーツも興味の赴くまま楽しんでいただきたいと願っています。下の写真は先日パリ管弦楽団のコンサートを聴きに行った最新のコンサートホール「フィルハーモニー・ドゥ・パリ」*3です。演奏されるプログラムをジャン・ヌーヴェルのアトリエが設計した建築の中で楽しむのに足を運ぶ価値があります。
パリ19区 ラ・ヴィレット公園内フィルハーモニー・ドゥ・パリのコンサートホール
*3 フィルハーモニー・ドゥ・パリHP英語
Philharmonie de Paris
住所:221 avenue Jean-Jaurès 75019
メトロ:Porte de Pantin 5番線 徒歩3分
開館:火~金 12:00~18:00、土~日 10:00~18:00
休館:月
雪の楽園
ここ数年、学校の冬休み期間に合わせて2月にスキーに出かけます。年末にも学校の休みが2週間あり、その時に行く人もいます。ただ日本のお正月のように、フランスのノエルから大晦日は家族や友人とお祝いするのが伝統ですから、学齢の子供がいる家族持ちはやはり2月に行く人が多いようです。
次女の幼い頃は、家族でスキー旅行に出かけると、大人が滑る間、次女に雪遊びをさせてくれるスキー場の託児所に預けたりもしましたが、スキースクールに入った年齢(4、5歳)以前の記憶が残っていないみたいです。9歳の次女が斜面を滑るのが楽しいと表現しだしたのは、ここ2、3年でしょうか。12歳の長女は楽しくて仕方がないという気持ちを日本の友達や祖母にLINEで伝えていたようです。私自身は子どもの頃スキーに連れて行ってもらっても、本音はそれほど好きではなく、寒さにふるえたり、インストラクターにレベルに合わない斜面に連れて行かれて怖かった思い出がありました。楽しいと思えるようになったのは大人になってからで、心からくつろいで楽しめるようになったのは、ヨーロッパに住むようになり、オーストリアでスキーをするようになってからです。
のんびり楽しむ
スキーの滞在日数が日本は日単位ですがヨーロッパは週単位で滞在中のんびりしているところが大きく違います。スキー場の近辺に住んでいる人は例外で週末や、会社の昼休み中に滑りに来ると聞いたことがあります!滞在中の「のんびりした」様子を説明すると「今日は雪がたくさん降って視界が良くないから、スキーしない」というホテルの滞在客も結構います。午前中は滑って午後は散歩やショッピングという人もいます。リフトが動きだす8時頃から夕方止まるまで、お昼もサンドイッチで済ませてガンガン滑るという人もいるとは聞きますが、少数派なのかほとんど見かけません。それからヨーロッパは地域によって学校の休暇期間をずらしている国(フランスやドイツなど)があって、学校が休みの期間でもそれほど混まないし、リフトに乗るために並ぶこともほとんどありませんでした。ストレスが少なく、リラックスしている雰囲気です。文字通り休暇です。
これも楽園!オーストリアのホテルのデザートビュッフェ
オーストリアのチーズの楽しみ方色々
オーストリアでのスキー休暇の間、チーズをいろんな形で楽しみました。フランスと楽しみ方は全く同じ。その一端を写真とともに紹介します。
チーズをナイフで切り割ってワインのつまみに
奥 パルミジャーノ・レッジャーノ 手前 グラナ・パダーノ
チーズはおろし方で食感が変わります
パルミジャーノを大きくおろしたものをのせたシーザーズサラダ
オーストリアチーズのプレート
表皮のオレンジ色のものはJerome、真ん中はBeaufort、表皮の黒いのは赤ワインで洗ったLändle Weinkäse
品名 | ジェローム Jerome |
---|---|
原産地 | オーストリア Styria 地方 Voitberg |
販売元 | Schärdinger |
殺菌乳 | |
脂肪分 | 45% |
デンマークのEsromのように、中に小さな穴がたくさんあいています。
黒パンにのせて軽食として楽しんだり、田舎風のチーズプレートの一つとして楽しめる他、肉料理と組み合わせたり、グラタンにも使えるSchärdinger社HP(ドイツ語)にありました。子供のおやつになり、パンにのせてオーブントースターで焼いて食べても良さそうな便利なチーズという印象です。
http://www.schaerdinger-gastro.at/produktdetails.php?id=321
品名 | ボーフォール(AOP) Beaufort(AOP) |
---|---|
原産地 | フランス サヴォワ地方 |
大きさ | 直径35~75cm、高さ11~16cm、21~70kg |
脂肪分 | 48%以上 |
熟成期間 | 4ヶ月以上 |
タイプ | セミハード |
原材料 | 牛乳 |
オーストリアがアルプスの東側だとすると、サヴォワ地方はアルプスの西側。
熟成の進むに連れて白っぽい黄色がだんだん濃い黄色になる。私はアボンダンスとごっちゃにしてしまうのだが、同じ原産地で大きさが違うとのこと(Wikipedia:ボーフォール参照)。ボーフォールもアルパージュ(夏の放牧牛から搾乳し作成したもの)のものは値段が高くなるが、おいしすぎて勢いづいて食べるため、すぐなくなる。高価でいつも売っているわけではないアルパージュでなくても、熟成期間の長めのボーフォールはコクがあって非常においしい。
品名 | レンドル・ワインケーゼ Ländle Weinkäse |
---|---|
原産地 | オーストリア フォアアールベルク州(Vorarlberg) |
殺菌乳 | |
脂肪分 | 48%以上 |
熟成期間 | 4ヶ月以上 |
スキーで滞在するレッヒ、ツュルス(Lech/Zürs)のあるフォアアールベルク州の地元チーズ。
表皮が赤ワインでウォッシュされているため黒に近い色になっている。チーズプレートに入れると黒い色がプレートを引き締めていいアクセントになる。中は薄い黄色でクリームの穏やかな風味。
ワイン会でのオーストリアのハムとチーズの盛り合わせ
オーストリアはシュペック(生ハムやベーコン)がとてもおいしい。
チーズはおそらくグリュイエールかボーフォール
はらからを思う
はらからは同胞と書き、同じ国民、同じ国土に生まれた人々という意味ですが、元々の意味は「母の腹から」で兄弟姉妹の意味です。この言葉の意味全てが理屈抜きに分かったの東日本大震災の日でした。パリにいて、日本から9000キロ以上離れたところにいても、さらにテレビはほとんど見ないため、ニュースを見るのに朝パソコンを起動中に突然、起きた事の重大さが自分の身体の感覚を通して伝わりました。あのような体験は後にも先にも一度きりです。
5年前の東日本大震災を振り返る新聞記事をここ数日読んでいました。被災された方々の書かれた文章の数々から3.11からこれまでの来し方が伝わります。当時小学生だった子どもが今は高校生になっている、そのような人が津波で亡くなった祖母を思い出す文章はすっと胸に染み入り、横で手を合わせたいような気持ちになりました。一方、逆縁というのでしょうか、避難途中に津波で亡くなった小学生の親の文章は読んで胸をえぐられるような痛みを感じます。年月という薬が、早くこの方々の痛みを鎮めてほしいと切実に思います。日本国民を代表して亡くなられた方々をお慰めする天皇陛下の追悼のお言葉を聞き、被災地の方々に早く以前のような安心して暮らせる日々が戻るよう願います。
「遊びをせんとや生まれけむ、戯れせんとや生まれけん、遊ぶ子どもの声聞けば、我が身さえこそ動かるれ」という(大河ドラマ平清盛のテーマにもなった)梁塵秘抄(りょうじんひしょう)にある今様が最近頭の中をぐるぐるしている筆者ですが、花粉症の症状も出始め、目に異物感があるのでしょぼしょぼさせながら、鼻をかみつつ、さらに顔がかゆいと掻いて歩いたりしているので、傍目からみると「木の芽時のちょっとおかしい人」そのものです。街を歩く人の数が暖かくなるにつれ増えてくるのは、パリの「あるある」ネタと言ってもいいです。陽射しが作る眩しさに春の訪れを感じつつ、皆さんも遊びに、仕事に、夢中になり、人生に夢中になって、周りの人を愛することができますように。それではまた、次回のコラムでお会いしましょう。
ゲレンデから眺めるオーストリア・アルプス