年度初めの9月

: UPDATE /

 

オペラガルニエ
オペラガルニエ

フランスの新学期

朝晩冷え込む季節になりましたが、皆さまお元気ですか。緯度が高めのパリでは1日1日、日が短くなって秋が深まります。パリの人は秋の夜長を観劇やコンサートに出かけたり、友人をディナー招いて楽しんでいます。ひときわ社交的な義母は自宅に人を呼ぶのが好きで、テーブルセッティングも年季が入って上手です。

赤と黒にクリスタルの輝き
赤と黒にクリスタルに輝き

4月に新年度や新学年が始まる日本と違い、フランスの学校は9月に始まります。ラ・ロントレー(La rentrée)と呼ばれる新学期は、文具売り場が学用品を買い求める親子でいっぱいになります。次女の通う小学校では学年ごとの学用品のリストは夏休み中に学校のサイトに記載されますが、同じ学年でも担任の先生によって指定される文房具が変わるため、買い物の大部分はやはり新学期が始まってからということになります。リスト・デ・フォルニチュール(Liste des fournitures)という学用品リストは写真のようなものです。消しゴムやらハサミやらすぐに何かが分かるものはさておき、クリアファイルや書類挟み、色・サイズ種類があるノートカバーなど、長女が小学校に入学した当初は、それが何なのかを解読しながら買い物をしなければなりませんでした。

学用品リスト
学用品リスト

万年筆で書く

日本の文房具、特に筆記具が質の高いのはフランスでも知られており、例えば去年の担任の先生は消せる水性ペン「フリクション」の赤、青、緑の購入を指定されていました。小学校でも基本的に鉛筆やシャープペンシルは使わず、筆記には青いインクの万年筆を使うようになっていきます。ローマ字の筆記体でたくさん書くには、筆圧がいらずに滑らかにかける万年筆が適しているのでしょう。低学年の頃は水性ボールペンを使い、高学年に上がるにつれ万年筆へ移行し、過渡期にフリクションを使うという趣旨だったと理解しています。子供はペンをよくなくしたり、こわしたりします。次女も最近ノートの筆記が異常に乱れた日があったのに気が付いて本人に問いただすと、万年筆を落としたらしく、ペン先がゆがんでインクが出にくくなってしまったのを親に言えずにいたようです。万年筆といっても子供用のWatermanで安価なものです。余談ですが公立の小学校では教科書は無料ですが、日本のように新品は配布されません。一年が終わったら回収し、次年度の生徒に渡されます。汚さないように透明のカバーをかけて使い、教科書に書き込んだり線をひくことはありません。子ども一人一人が教科書を無償で受け取れる日本の学校は実はありがたいものです。

「消せるボールペン」と紹介
「消せるボールペン」と紹介

小学校 アートの日

パリのグランパレで昨年大規模なニキ・ド・サンファルの回顧展がありました。子どもが通う小学校では校長先生の方針でグランパレの見学が生徒の遠足の一つになっています。学年末には生徒一人一人がグランパレで見た画家の作風をまねて作画したり、立体作品を仕上げます。また画家の生涯について詳しく学習するようで、画家としての活動だけでなく、画家の歩んだ人生についても説明されているようでした。アートの日に見た生徒の作品はニキ・ド・サンファルの特徴をよくつかんでいるように見えました。

ニキ・ド・サンファル展はグランパレ、スペイン、ビルバオのグッゲンハイム美術館に続き、現在東京六本木の国立新美術館で2015年12月14日まで開催されているそうです。毎年恒例のグランパレへの遠足は、今度はピカソだと次女がうれしげに報告していました。学年末6月のアートの日にはまた学校中がピカソ風作品でいっぱいになるのが楽しみです。ご存知の通り美術館や博物館がパリにはとても多く、小学生もクラス単位の遠足(ソルティ(sortie)と呼ぶ)で訪れます。

アートの日
アートの日

おやつ

パリの公立小学校は午前8時半に始まり、午後は4時半に終わる日と3時に終わる日が交互します。水曜日は午前中の半日です。下校時には、昼食から3、4時間たち子どもは大抵お腹を空かせています。帰宅するまで到底待てないという感じで、歩きながらおやつをほおばる姿はかわいらしいものです。フランスではおやつのことをグテ(goutée)と言い、夕方のグテは放課後のお楽しみです。
学校の近くではお母さんやおばあちゃんが家で用意してきた板チョコを挟んだ食パンをほおばる子や、パン屋で買えるシューケットやパン・オ・ショコラをおやつにする子を見かけます。チョコとパンの組み合わせが人気のようです。他には、りんごのコンポートが密閉チューブに入ったものも人気があります。

写真のシューケットは直径4センチくらいのシューに粒砂糖をまぶしてやいた子どものおやつです。中は空洞で見た目よりもしっとりした食感です。パン屋で一つから買えますが、10個で2.5ユーロほど。他にはクレープも人気のおやつです。単純に砂糖を振ったり、ニュテラ(Nutella)というヘーゼルナッツチョコペーストを塗って4つ折りにして食べます。

シューケット
シューケット

週末などはりんごなどをタルトにしてデザートやおやつに焼くこともあります。一番簡単なのはコンポートと呼ばれる砂糖煮です。写真のタルトも、タルト生地の上にコンポートを敷いて、生のスライスを乗せて焼いています。こうするとしっとりしたコンポートとサクサクしたりんごのスライスの二つの食感が味わえるので気に入っています。そういえばりんごは今からが旬の出盛りですね。

りんごのタルト
りんごのタルト

こどもの習い事

子どもの習い事にはフランスも日本もあまり違いはありません。娘の周りの小中学生はダンスやピアノやヴァイオリン、柔道などを習っています。そういえば、公文の算数教室も人気があるそうです。男女問わず柔道の稽古に通う子どもも多いです。一方、ヨーロッパらしい習い事だと感じるのはフェンシングや乗馬です。家の近くのブローニュの森には3つほど乗馬クラブがあるそうで、近所の大型スポーツ店にも子どもの乗馬用ブーツやキュロットが並んでいます。中世のヨーロッパでは乗馬と剣術は騎士として身につけなければならないものでしたが、現代でもスポーツとして親しまれています。夏の海辺では子どものヨット講習も大変な盛況です。6歳くらいから18歳くらいの子どもが、小さい帆船から始めて、カタマランと呼ばれる双胴のヨットやウインドサーフィンを習います。

レキップ(l'equipe)の練習風景 - サントロペにて
レキップ(l’equipe)の練習風景 - サントロペにて

チーズのプラトー(le plateau du fromage)

こうしてフランスでの生活や食事、フランスチーズについてエッセイを書かせていただくようになって数年がたちました。しかし、いまだにチーズの食文化を十分理解して生活の中で実践しているとは言い難いです。同じチーズでも生産者、季節や保存状態によって味わいは同じではありませんし、同じチーズでもスパイスや果物やトリュフなどのアクセントを効かせたものは食べた印象が違ってくるからというのもひとつの理由です。またフランス人にとっては、チーズもデザートと同じでおなかがいっぱいでも別腹で食べられるものみたいです。知れば知るほど奥が深いのが食文化ですね。

日本ではチーズを食事の終わりに楽しむというよりは、ワインのおつまみとしていただく、パーティで一口サイズにスライスしたものを楽しむ方が一般的ではないかと思います。アメリカやイギリスでもチーズをおつまみやパーティプレートとして楽しんでいましたし、フランスでもそうする時もあります。今回は食事の締めくくりとしてフランスの家庭でサーブされたチーズのプラトーを紹介します。

ノエルのプラトー 左から時計回りにクミン入りマンステール、花びら状にスライスされたテット・ド・モアン、トリュフクリームをはさんだクロミエ、オッソー・イラティ、オッソー・イラティにつけ合わせるさくらんぼジャム、型抜きミモレット
ノエルのプラトー 左から時計回りに
クミン入りマンステール、花びら状にスライスされたテット・ド・モアン、トリュフクリームをはさんだクロミエ、オッソー・イラティ、オッソー・イラティにつけ合わせるさくらんぼジャム、型抜きミモレット

お祝い時期のプラトー

12月が近くなるとフロマジュリーの店頭にはたくさんのモンドール(Mont d’or)が山積みに置かれます。このトリュフ入りモンドールのように比較的大きく、特別感のあるチーズは一種類だけ出すことがあります。モンドールは9月後半から3月頃まで季節限定で夏には手に入らないチーズです。これからの季節、ホームパーティなどで出せばお客さんに喜ばれるのは間違いありません。

モンドール山積み
モンドール山積み

写真のトリュフ入りモンドールをいただいたのは大みそかのディナーでした。パリ17区のマルティン・デュボワ(Martine Dubois)というフロマジュリーのトリュフ入りモンドールです。チーズを出す順番がアペリティフ(aperitif)から前菜、メインをいただいた後のため、もう満腹で「チーズはパスする」という人も結構いました。ところが出されたチーズがモンドールだったので皆「やっぱり一口食べよう」とスプーンでお皿によそっていたのが印象に残っています。フランス人のチーズは別腹という例です。

ノエルのプラトーの写真にもトリュフクリームを挟んだクロミエがありますが、チーズ+トリュフで豪華感を出したチーズはお祝い時期の定番になっているようです。個人的にはトリュフの香りが余計な気がして、モンドールはそのままの方が好みです。トロトロ、つるりとした食感がモンドールの特徴だと思いますので。ただ、ブリーやクロミエにトリュフクリームやイチジクを挟んだものは目先が変わっていいものだとも思います。

トリュフ入りモンドール
トリュフ入りモンドール

友人宅でチーズを楽しむ

週末のランチに呼んでくれた友人家族のところでよばれた時に印象に残ったのは、ワインがブルゴーニュだったことや、ブルゴーニュの北、シャンパーニュ地方で作られるシャウルス(Chaource)がプラトーにあったことです。ご主人がブルゴーニュの出身なので「わが地方のシャウルスだよ」と誇らしげに出してくれました。それまで白カビチーズの一種としてあまり意識したことのなかったシャウルスが一気に身近に感じられた食事でした。出された場所や交わした会話のおかげでシャウルスというチーズの記憶が定まったのだと思います。

友人宅のチーズプラトー左から時計回りにカマンベール、サント・モール・ド・トゥレーヌ、シャウルス、ロックフォール
友人宅のチーズプラトー
左から時計回りにカマンベール、サント・モール・ド・トゥレーヌ、シャウルス、ロックフォール

晩秋のチーズプラトー

 

くるみの風味のチーズやレーズン&チーズで秋のプラトー 左下から時計回りにトラップ・デシュルニャック、コンテ、ブルー(種類は失念)、フレッシュチーズにレーズンをつけたもの
くるみの風味のチーズやレーズン&チーズで秋のプラトー
左下から時計回りにトラップ・デシュルニャック、コンテ、ブルー(種類は失念)、フレッシュチーズにレーズンをつけたもの

上の写真のチーズプラトーは田舎の家でのランチでのもので晩秋ですので枯葉の絵付けの皿に盛りました。
左下のトラップ・デシュルニャック(Trappe d’ Echourgnac)はしばらく私自身が気に入って買い続けていたものです。トラップという名前の由来はこのチーズが元々トラピスト修道院で作られていたことによります。ただ、このチーズが生まれたのはまだ15年ほど前のことで、聞くところによればこの修道院を受け継いだ修道女達が元々修道院で修道僧が作っていたチーズをクルミのリキュールで洗うというひと工夫を加えて生まれたのだそうです。クルミの香りとスモークしたようなかすかな苦味とミルクのコクがたまらないチーズです。このレシピを生み出したのはフランス南東部ドルドーニュ地方のノートルダム・ド・ボンヌ・エスペランス修道院(L’Abbaye de Notre-Dame de Bonne Espérance)ですが、現在はあまりの人気に製造が追いつかないためブルターニュ地方のティマデューク修道院(L’abbaye Notre-Dame de Timadeuc)とレシピを共有し、こちらはティマノワ(Timanoix)*という名前で販売しています。

* ウィキペディア Trappe Echourgnac

子どもが喜んで食べるのはコンテと上の写真のレーズンのついたフレッシュチーズです。実は私もフランスに来た頃、始めに気に入ったのがこのチーズでした。干しぶどうはしっとりとして軽くリキュールも含ませてあり、中のフレッシュチーズとのバランスが絶妙です。デザートのようなチーズです。こういうチーズはフロマジュリーの創作かもしれません。クランベリーなどのドライフルーツと組み合わさったものも見ますし、大きさもテニスボールからピンポン球くらいのものまで様々です。日持ちがしなさそうなのですが冷蔵庫で数日間は持ちました。

村の散歩
村の散歩

今回もお付き合いいただきありがとうございました。9月、10月と慌ただしく過ぎる日々の中でこのコラムを書いて一年を振り返った気がしています。来週は家族の誕生日の記念にローマへ行きます。イタリアもフランスに負けずおいしいチーズがたくさんありそうで、今からとても楽しみです。

五条ミショノウさやか

2004年からパリに在住。 家族は夫と娘が二人。 業界誌や講演録などの英日翻訳をしています。