チョコレートと復活祭
: UPDATE /チーズ・フォンデュとフォンデュ・シノワーズ
オーストリア・アルプスの話を前回2月下旬のコラムで書いた直後に、再びオーストリア・アルプスで定宿にしているツュルス(Zürs)のホテルに滞在してきました。滞在中に2種類のフォンデュをいただく機会がありましたので紹介します。
チーズ・フォンデュ(fondue au fromage)
チーズの料理といって、一番に思い浮かぶのはピザかチーズ・フォンデュではないでしょうか。チーズ・フォンデュはフランス語でフォンデュ・オ・フロマージュ。スイス、フランス、イタリアにまたがるアルプスの山岳地帯やその周辺の郷土料理です。地域によっても家庭によってもバリエーションがあります。使うチーズの種類、ワインやオー・ド・ヴィー(eau de vie)*1の種類、ニンニクの量も違うそうです。
エメンタールやグリュイエールチーズを使うのが一般的ですが、写真のものはスイス風でヴァシュラン・フリブルジョワ(vacherin fribourgeois)*2とグリュイエールを使っています。フランスのチーズ・フォンデュはフォンデュ・サヴォイヤール(fondue savoyarde)と呼ばれています。サヴォア地方のフォンデュという意味です。こちらはコンテ、ボーフォール、エメンタールの組み合わせです。(サヴォアでもレストラン、家庭によってチーズの配合は異なると思います)1種類より2、3種類個性の違うチーズを組み合わせた方が味に深みが出ていいようです。
*1 オー・ド・ヴィー フランスで蒸留酒のこと。生命の水という意味。
*2 ヴァシュラン・フリブルジョワ AOP(vacherin fribourgeois)
品名 | ヴァシュラン・フリブルジョワ |
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原料乳 | 生乳 |
産地 | スイス フリブール州 |
熟成期間 | 9週間から数ヶ月 |
大きさ | 直径30~40cm, 高さ6~9cm |
重さ | 6~10kg |
柄が細長いフォークに一口サイズに切ったバゲットをつきさして、とろけたチーズをからめていただく食べ方は、皆さんもよく知っている通りです。料理法は簡単です。ニンニクをこすりつけた小鍋の中で白ワインを温め、細かく切ったチーズと混ぜて溶かします。好みでこしょうやナツメグ、キルシュなどの蒸留酒を加えます。卓上コンロに小鍋を置いて温めながらいただきます。写真のようなフォンデュの専用鍋(カクロン(caquelon)といいます)があると見た目にもすてきです。赤い小さな鋳物ホーロー鍋でフォンデュをしているのを見たこともありますが、おしゃれで心惹かれるものがありました。
フランスでは、バゲットや田舎パンのパン・ド・カンパーニュを前日あらかじめ切っておいたものを好んで使いますが、スイスやオーストリアでは切りたてを使っていました。またフランスでは鍋の中のチーズが残り少なくなったら、卵黄を落としてかき混ぜます。キルシュも香り付けに少しだけ加えて。こうすると、鍋底に残ったチーズまでおいしく食べられます。オーストリアのホテルのオーナー夫人にこのフランス風の食べ方を紹介したら、「こんな食べ方は知りませんでした。これもとってもおいしいですね、いいことを教えてもらいました。」と喜ばれました。
「フランスでは」、「スイスでは」と紹介しましたが、今まで食べたフォンデュ・オ・フロマージュは一つとして同じ味のものはなかった気がします。
チーズによって味が変わるのはもちろん、ワインの種類によっても風味が変わりますし、香辛料を使うか、キルシュを入れるかなどによって味が変わるので「わが家風」というのが千差万別にあるのでしょう。お知り合いにフランスやスイス、イタリアのアルプス地方出身者がいたら「お宅のチーズ・フォンデュのレシピを教えてください」と聞いてみてください。喜んで披露してくれると思います。
スイスAOPの決まりで次の6種類に分けられる。
クラシック(Classic) | 9-12週間 |
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エクストラ(Extra) | 最短12週間 |
Rustic(Rustic)<田舎風> | 最短12週間から25週間まで |
アルパージュ(Alpage)*3 | 12-25週間 |
マウンテン(Mountain) | 9-25週間 |
オーガニック飼料(Organic) | 最短で9週間 |
*3 アルパージュ(Alpage)についてはコラムの終わりで説明しています。
フォンデュ・シノワーズ(fondue chinoise)
シノワーズとは中華風という意味です。中華風の鍋料理を食べさせる店は日本にもフランスにもあります。けれどもここで紹介するフォンデュ・シノワーズは中国の鍋料理ではありません。中華料理の鍋料理をスイス風にアレンジしたもののように思います。日本でいう薄切りよりは分厚めに切った牛肉や鶏肉を、細長いフォークにさして卓上コンロで温めたコンソメスープにくぐらせていただくので、しゃぶしゃぶに似ています。
フォークには色で印がついていて誰のものか一目で分かるようになっています
スイス風フォンデュ・シノワーズの特徴はマヨネーズやクリーム系のソース、薬味を何種類か用意するところです。
下の写真のソースを左上から時計回りに紹介します。
ベアネーズソース(sauce béarnaise)
ハニー粒マスタード
わさび風味クリーム
サワークリーム
カレー粉入りクリーム
ニンニク入りマヨネーズ(ソース・アイオリ(sauce aioli))
ケチャップを加えたマヨネーズ(オーロラソース風(sauce aurore))
オーストリアのホテルでいただいたソースはこんな取り合わせでしたが、肉にあいそうなものならなんでもいいと思います。和洋エスニックのアレンジで楽しめそうです。スイスのお料理とは言え、中華風の名前だし、わさびソースを取り入れているところを見ても「これが決まり」という堅苦しい料理ではない気がします。口休めにはきゅうりやカリフラワーや人参、辛くない青唐辛子などの野菜のピクルスが合いました。
家で作るのにちょっと時間がかかるのが、スープ(だし)を用意するところです。けれども時間がなければ、また「だし」にこだわる人でなければ固形コンソメを使ってもいいと思います。日本で作るなら、お肉もしゃぶしゃぶ用の牛肉や豚肉などを使えばいいと思います。日本の鍋料理の締めはおじやだったり、うどんを入れたりと楽しいものですね。フォンデュ・シノワーズの締めは、肉のエキスがたっぷりでた熱々スープをマグカップに注ぎ、シェリー酒を垂らしていただきます。まだ私は試していませんが春雨を入れてスープと一緒にいただくのもおいしいようです。
~ フォンデュ・シノワーズ レシピ ~
実は自分では用意をしたことがないので、オーストリアで食べたものを記憶にいろんなレシピを参考に書いてみました。
材料:
薄切り肉
- 牛肉
- 鶏むね肉
- 仔牛肉
- 七面鳥肉
肉は2種類くらいあると並べたときにきれいですし味や食感の違いも楽しめます。
スープ(だし)
- 骨つき鶏肉、鶏ガラ、牛肉のうちどれか
- 鶏ガラを使うときは血や内臓をきれいに洗い流すと味や色がにごりません。スープの味は牛肉がベストかなと思いますが牛すね肉などの安いもので十分。
- 水2、3リットル
- 香味野菜(にんじん、セロリ、たまねぎ、ローリエなど)
- 塩、こしょう
作り方:
大きな鍋に肉を入れ、水を注ぎ、強火で沸騰したら、中火にしてアクをすくいとる。
香味野菜を入れ、塩をして中火で1時間から1時間半ほど煮る。塩、こしょうで味をととのえる。ざるでこす。きれいなブイヨンにしたい場合はキッチンペーパーをざるにのせて漉す。
~サイドディッシュに~ ジャガイモのオーブン焼き
小さいジャガイモ、または適当な大きさに切ったジャガイモをよく洗い水気を切ってオーブン皿に入れる。皮付きのままでよい。
タイムやニンニクひとかけらを入れ、塩、こしょうをしてオリーブ油を回しかけて180℃のオーブンで30分ほど焼く。
チョコレートと復活祭
復活祭のテーブル
2015年のパック(Paques(復活祭、英語ではイースター))は4月5日の日曜日でした。復活祭の翌日の月曜日は休日になっているので、毎年パックの連休はいつかしらとカレンダーを調べることになります。というのは、日付が毎年変わるからで3月21日春分の日の後の最初の満月の後の日曜日に祝うとされています。グレゴリオ暦では3月22日から4月25日の間の日曜日です。 「ニカイヤ公会議」*4で復活祭の日を決めたそうです。高校で世界史を取っていた方なら名前を覚えているかもしれません。
元々、パック(Paques)はユダヤ教の祝日「過越の祭り」です。ヘブライ語のペサハ(Pesach)が語源でフランス語のパック(Paques)になりました。モーゼに率いられてエジプトを脱出したことを祝うユダヤ教徒の過ぎ越しの祭りが元になり、キリスト教の復活祭Paquesになりました。十字架に架けられて三日目にイエス・キリストが復活したことを祝う祝日です。
パックには卵がよく登場しますが、ユダヤの過ぎ越しの祭りでもキリスト教の復活祭でも卵は死と再生のシンボルです。
*4 325年第一回ニカイヤ公会議
ローマ皇帝コンスタンティヌス帝が主催したキリスト教の教義を決める全教会規模の公会議
卵や動物の形のチョコ
難しいことはさておき、復活祭の日に子供たちが何よりも楽しみにしている行事はエッグ・ハンティングの代わりのチョコ・ハンティング!セロファンの袋に入った卵や動物の形のチョコを庭のあちこちに隠しておき、「もう庭に出てきて探していいよ」の合図で子供達がチョコを探し始めます。見つけたチョコはカゴの中に入れて、走って探し回る。枝を見上げたり、植え込みの間にも目をこらしたり。とにかく走り周ってチョコを探します。3歳離れた姉に負けずと真剣な目をして走り回るも、いつも劣勢になる次女はコミカルです。途中からはおばあさんのささやき声や母の合図を頼りに次女も劣勢を挽回してゲームは終わります。5分か10分くらいしかかからないし、金や銀紙で包まれた卵チョコは小さくても案外見つけやすいので、皆さんもこどもの遊びにいかがでしょう。大人はチョコを隠す前に幾つあるか数えておかないと、ゲームが終了できないのでお忘れなく。家の中でもできますが、外の方が走り回ってもぶつかったりケガの心配がないでしょう。
3年前のチョコ・ハンティングでしとめた大物?
子育ての春
2月の終わり雪におおわれたオーストリアの山の牧場でも、今年生まれた数頭の仔牛がいました。下の写真は生まれて1時間しかたっていない仔牛です。午後に滞在ホテルのそばの牛舎を見学にいったら、タイミングよく生まれたての仔牛に出会えました。(免疫をつけるため)初乳だけ飲ませたら母牛から離すんですと牧場の方が説明してくれました。そうしないと母牛を呼んで鳴いて大変なことになるそうです。生まれて間もない仔牛はまだ毛も濡れているし、立とうとして立てずにいるようでした。もう一枚の写真は「私を見て〜」と顔を近づけてくる1ヶ月の仔牛です。
冬の間は屋内牛舎にいて干し草などを飼料に与え、牧草の生える6月から夏の間は外へでて放牧されるということでした。標高が1700mを超えるツュルスのスキーシーズンもそろそろ終わりです。アルプスの山に遅い春がきて雪が溶け、6月中旬頃になると放牧が始まります。仔牛たちも成牛に混じって太陽の下で高山植物の花やハーブ、若草を食むのでしょう。この牧場の牛乳は近隣のホテルなどで牛乳として消費され、チーズやバターにはしないそうです。何年もツュルスの同じホテルに泊まっていますが、街に降りる坂道の途中で干し草小屋から牛の臭いがするので不思議に思っていました。道路からは見えない山の斜面側に牛舎の入り口がありました。ホテルの朝食で出される牛乳もここの牧場のものだったようです。
生まれてすぐの仔牛
生後1ヶ月の仔牛
アルパージュ
初夏になると乳牛を標高の高いアルプスの山の放牧場に連れて行き、花やハーブや草を食べさせます。アルパージュと呼ぶ山の放牧場に夏の間だけ使う山小屋(シャレ(chalet))があり、そこで牛飼いのアルパジストとチーズ職人のフロマジェールの協力作業でチーズが作られています。アルパージュという言葉は、アルプスの山の放牧場と群れを連れて山へ登ることを意味しています。そしてチーズの名前にアルパージュとつくものは、初夏から夏に山小屋で作りましたということです。ヴァシュランやボーフォール、コンテなんかもアルパージュものは一味違うと聞いています。実際、花や蜂蜜のような香りが口の中に広がる経験をすると、やっぱりアルパージュのものはおいしいなあとなります。
ハイジ世代の人は、夏の間ヤギの群れを連れて山に登っていたピーターが秋口にふもとへ降りてくるシーンを覚えておられるかもしれません、今思えば、ヤギのアルパージュをしていたのですね。ヤギの乳のシェーブルも初夏から夏に作られるものは風味が違います。カロチンをたくさん含んだ草やハーブや花を、山でたらふく食べた牛やヤギのお乳がおいしいに決まっています。
同じチーズでもアルパージュとつくものは芳香があり、値段も上がります。チーズに旬というのがあるとすればアルパージュのチーズは旬の食べ物です。初夏から夏にかけてアルパージュのチーズ作りを見学する機会があれば、また皆さんにも紹介したいと思います。今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。