パリの日本
: UPDATE /グラン・パレの北斎展
先日、グラン・パレ(Grand Palais)に北斎展を見に行きました。
平日の開館時間に行けば、それほど並ばずに入れるだろうと考えたのが大間違いでした。入館するまでに1時間はかかりそうな長蛇の列に恐れをなし、後日オンラインでチケットを購入してから来ることにしました。予約した水曜日はお昼頃でしたが入場者がかなり多かったです。北斎展は2015年1月18日まで開催しています。
一階から二階への階段の踊り場には北斎漫画の拡大図
富嶽三十六景
北斎が72歳の時に発表した富嶽三十六景の版画も数点あり、その中の「凱風快晴」と「神奈川沖波裏」が2階に展示されていました。この二点を鑑賞するためだけでも北斎展に行く価値があると、私は家族や友人に伝えています。
1階に展示されていた龍の絵「龍図」も鳥肌が立つほどの迫力です。多くのフランス人や観光客がじっとたたずんでこの絵を眺めていました。90歳の没年に描かれたものだそうです。雲の中から龍が現れ出たかのような恐怖すら感じました。悲しさを感じる龍眼はどうしてなのかと疑問に感じたり、見る者に様々な感覚を引き起こす絵でした。最晩年、北斎はどんな思いでこの絵を描いたのでしょうか。
凱風快晴
神奈川沖波裏
美術展ミニ情報
ほとんどのパリの美術館のチケットはオンラインで購入できます。各美術館のサイトよりフナック(fnac.com)やチケットマスター(ticketmaster.fr)のチケット販売ページにリンクし購入する形式が多いようです。今回訪れたグラン・パレでは北斎展とともに現在フランスの彫刻家、画家ニキ・ド・サンファル展(Niki de Saint Phalle)も2015年2月2日まで開催中です。
グラン・パレのサイト*1からは入場時間の決まったチケットを直接購入できるようになっています。ちなみに、パリに来ている母にも北斎展を勧め、時間決めですぐ入れるチケットを購入しようとサイトで調べたところ、今日の分は完売で、明日の分も朝から午後のチケットは売り切れで、夕方17時以降に入場するチケットが残っているといった状況です。限られた旅の時間を有効に使うために美術館等のチケットは前日か前々日までに購入することをお勧めします。とは言え、旅行の際はほかにも事前にやること、確認することがたくさんあって、なかなかそこまで準備できないというのも実情ですね。
余談ですが、グラン・パレの北斎展の宣伝動画*2がとてもかわいいのです。パリの観光名所と北斎の絵の取り合わせがなんとも言えません。数十秒間パリと江戸にトリップしてみてください。
*1 グラン・パレ(英語、フランス語)
*2 北斎展の宣伝動画
龍図
ボン・マルシェの日本フェア
つい先日まで、1ヶ月半にわたってパリの老舗デパート ル・ボン・マルシェ・リヴ・ゴーシュで開催していた企画展 ル・ジャポンです。パリのデパートは右岸のオペラ近辺に大型のギャラリー・ラファイエットやプランタンがあり、左岸に先の二店よりも小さいけれど独特の存在感を放つボン・マルシェがあります。カルチェラタン近辺には大学や研究所などがありますが、知的なパリジャンが多いと言われる左岸のボン・マルシェで日本をテーマとした企画展はピッタリだと言う印象です。
赤い鳥かごは日本のイメージ?ボン・マルシェ入り口にある茶店
デパートのウィンドウには日本の注目ブランドsacaiの洋服がずらりと並び、店内入り口には鳥かごを模した?喫茶店がありました。ここではとてもおいしい煎茶がいただけるそうですが、客がひっきりなしに入ってくる入り口の鳥かごでお茶をいただくのは恥ずかしいので遠慮してしまいました。
フランス語や英語でもKawaiiで通じるキュートな雑貨類を見て、なるほどこういうものがフランス人にとっては新鮮で魅力的に映るのねと感心した後は、一階(日本式の2階)にある大きなスクリーンのある会場へ入りました。安藤忠雄氏が瀬戸内海の直島(なおしま)で手がけた建築プロジェクトの大型模型と映像を眺めながら、なぜ建築家の安藤忠雄さんが今回の企画展に選ばれたのだろうと思っていたのですが、会場の外に備えてあったノートをみて納得しました。現代アートが集まる直島を実際に訪れた人たちやこれから行きたいと思っている人がとても多いようで、ノートには熱いメッセージが書き込まれていました。*3 ボン・マルシェの本館で、ほかに目を惹いたものはナミキの蒔絵万年筆です。ため息のでる美しさというのはこういうもののことをいうのでしょう。
直島の映像と島の模型を楽しみながらひと休憩
ナミキの蒔絵万年筆
小腹がすいたらボン・マルシェの隣のラ・グランド・エピスリー・ド・パリ(La Grande Epicerie de Paris )に移りましょう。グランド・エピスリーはボン・マルシェの別棟にある食料品売り場です。日本フェア開催中は高級醤油やお酢から、おせんべい、大人気の日本のウィスキーなど広いスペースに目移りするほどの品が揃っていました。ただ、漢字やひらがなのパッケージが多く、フランス人は値段のプレートに小さな文字で書かれたフランス語訳を見て中身を知るしかないわけで、使い方や食べ方が分からないのではとも感じました。ボン・マルシェのスクリーンを通して見る日本は伝統とモダンが両立し、スタイリッシュでした。
調味料やスナック菓子も色をそろえて陳列
アボンダンス
ボン・マルシェの食品館であるラ・グランド・エピスリー・ド・パリは、3000平方メールの売り場にフランスと世界の食品、生鮮食品、ワインや酒類を扱うカーヴがあり、パリにいらしたことのある方は、ここで気に入った食品を自分用にまたはお土産に買われた方も多いでしょう。月曜日から土曜日の8:30から21:00までと開店時間の長いのも旅行客には便利らしく、朝から夕方までいつでもたくさんのお客さんでにぎわっています。
パリでの食品の買い物の仕方は人それぞれです。カルフールやオーシャンなどの郊外型大型スーパーで一週間分の買い物をすませる人もいれば、地元の野外マルシェや専門店で生鮮食品を必要な分だけ買う人、またここ数年はネット・スーパーで注文して指定の日時に自宅に配達してもらう家庭も増えています。ただ、生鮮食品に関しては専門店やマルシェが品質も良く新鮮なように思います。グランド・エピスリーは高級スーパーマーケットなので、値段は高いですが良質のものをおいています。一店で効率よくいろいろな食品が買えるので、おいしいものを少しずつ数種類買いたい人にはとても向いていますから、観光で来られる方にはぴったりのお店です。
グランド・エピスリーのバター売り場
チーズや乳製品の売り場も非常に充実しています。今回はチーズ売り場で夕食のチーズを選んで帰りました。秋から冬の間おいしいチーズは山のチーズであろうと思い、まずはアボンダンスを選びました。アペラシオン・ドリジン・コントロレAOPの認証があり、生乳(加熱殺菌なし、成分無調整)で作られています。
原産地はオート・サヴォア県Haute-Savoie、Chablaisです。Chablaisはレマン湖に面し、スイスとの国境にあります。元々はChablaisの谷の修道院の修道士たちがアボンダンス種の牛乳で作り始めたチーズだそうです。手元のチーズガイド*4によれば、1382年にこの修道院のチーズは当時教皇庁のあったアヴィニョンの法王クレモン7世の公式御用達チーズ製造所となったとあります。現在のアボンダンスはアボンダンス種、タリン種、モンベリヤール種の3種の牛乳が使われています。小さな穴が開いており、味わいは山のチーズらしいかぐわしさとミルクの甘みがあり、ナッティなコクがあります。コンテやボーフォールよりもアボンダンスが好きというチーズ好きの友人に教えてもらってから、時々食べるようになりましたがハードチーズとしては少し柔らかめで味わいが濃い気がします。
上から時計回りに
Tomme d’Abondance Lait Cru
Bouyguette de Chevre
Chevre Raisin
最近、日本から来た友人夫婦を招いてアペリティフを囲んでおしゃべりしたり、サンフランシスコから訪れた元同僚を夕食に招いたりと友人を招く機会も多いのですが、秋の夜長を楽しむとはよく言ったものだと思います。 美術館に足を運んだり、文化的な催しに出かけたくなる芸術の秋ですが、おいしいチーズで楽しい夕食のひとときをご家族やご友人とお過ごしください。
*4 参考文献 Le Guide des Fromages Connaître, Acheter, Déguster, Milan