職人のチーズ 2 ~カリフォルニア暮らしより~
アメリカからの便り 2012~ : UPDATE /チーズの名産地
夏に取材した、Cowgirl Creamery による ”Cowgirl Creamery Cooks”がこの10月29日に遂に上梓されました。
早速電子ブックで手に入れて読んでみましたが、前回の私のコラムで記載したようなCowgirlの歴史や、彼女たちのチーズへのこだわり、全米のチーズ事情についてに始まり、もちろん数々のよだれがでるような美味しそうなチーズレシピが満載です。
“Cowgirl Creamery Cooks”の公式HP
この本の中で全米のチーズ名産地のひとつ、東海岸のカナダ国境に接する小州、バーモントについて書かれているページがありました。正直に告白しますと、恥ずかしながら私はこのバーモント州がチーズでそんなに有名だとはこの夏まで知らなかったのです。夏の間、私は会う人ごとに「何かチーズについて知ってることがあったら教えてね」と聞いていました。その中でバーモント州出身の友人デビは私がチーズのコラムを書いていると聞くと面白そうに目を輝かせて、「じゃあこの間親族の集まりに行った時に買ってきたチーズをちょっと分けてあげるわね」とCabot Creamery 製のシャープチェダーの大きな塊を冷蔵庫から取り出し、「バーモントはチーズで有名なの?」と聞く私に「そうよ!」と誇らしげに胸を張ったのでした。
余談ですが、彼女に「日本人は『バーモント』といえば某社のカレールーというものを思い出しちゃうんだけど、ほんとにバーモントの人はりんごとはちみつを食べるの?」と尋ねたところ、また面白そうに目を輝かせて「なぁにそれ?りんごとはちみつってことは甘いもの同士でしょ。りんごとチーズはよく合わせるけど、それって面白いわねえ。バーモントの面白い組み合わせといえば、子どもの頃よく積もった雪の上に熱々のメープルシロップを垂らしたところにピクルスをつけて食べたものよ」なんてこれまた意外な食べ物を教えてくれました。
チーズとビール
前回の私のコラムで書いたCowgirl Creameryの他に、町で行きやすいチーズスポットということで思いついたのが大手スーパーマーケットチェーンのWhole Foods Market でした。
特にサンノゼ市近郊のクパティーノ市(アップル本社などがあり、世界中から技術者が集まっている。住民の健康や環境、教育への意識も非常に高い)にあるWhole Foods Stevens Creek店は地域でも随一の大型店舗で、もちろんグルメ食材が充実しているだけでなく、様々なアレルギーやベジタリアン食にも対応できるオーガニックを中心とした幅広い品揃えが人気と信頼の秘訣です。
環境に配慮した化粧品や日用品も数多く、お惣菜コーナーも種類が豊富です。店舗付属のキッチンもあり、そこでは季節ごとにお料理教室やセミナーなどが開かれています。
この夏の訪米中も残念ながら参加はできなかったのですが、「チーズとビール」という本の著者によるサイン会とテイスティングのイベントが開かれていました。
ちょっと話は逸れますが、この「チーズとビール」の組み合わせを最近よく目にします。
一般的には「チーズとワイン」が普通だと思いますが、ビールとのペアリングを敢えて提唱するところがちょっと目新しい感じです。こちらの本も入手してみましたが、ビールやエール(アメリカの地ビールではこちらの方がラガービールよりも一般的。醸造期間の短さや設備が比較的簡易で良いこともその理由のひとつ。一般的にビールよりも香りが強くフルーティーな味わいが特徴)などの説明やチーズの説明をはじめ、ビールの冷蔵の最適温度やチーズとのペアリング(アメリカのチーズももちろんたくさん載っています)などが微に入り細に入り書かれていてなかなか便利そうです。実は私はあまりアルコールが飲めないのが本当に残念なところです。
関連サイト:“Cheese & Beer” Janet Fletcher 著
スーパーマーケットで聞く
さて、話を戻しましょう。
こちらのWhole Foodsは非常に立派なチーズ売り場があり、専門のチーズ販売員にカウンターで相談に乗ってもらうこともできます。全体的にお店を見て、比較的若い店員さんが多くて活気があるように感じられますが、こちらのチーズバイヤーであるエイミーさんもとても若くてチャーミングな女性です。
エイミーさんに「地元産のチーズで特にお気に入りはどれですか?」と質問したところ真っ先に上げてくださったのが先に取材したCowgirl Creameryの Mt. Tam(マウント・タム)というチーズでした。こちらはトリプルクリームタイプの非常にこってりなめらかでクリーミーな白カビタイプのチーズです。エイミーさん、マーティンさんともにお気に入りだそうですが、撮影に使ったものをレジに持って行った時、レジ係のお兄さんまでが「このチーズ食べたことある?ものすごく美味しいよね。ぼくはこれが一番好きなんだ」とにこにこ顔になったので、このチーズが本当に愛されていることを実感しました。
次にあげてくださったのはToma(トマ)。こちらもCowgirl と同じくPoint Reyesに工房を構えるPoint Reyes Farmstead Cheese Company製。もともとトマはイタリアのチーズですが、こちらの工房のものも非常に良質で、2010年にはロンドンでの世界大会で銀メダルを取った他、アメリカ国内のあらゆる品評会やチーズのコンクールで受賞しています。
セミハードタイプでクリーミーですが、こちらはかなりしっかりした力強い味わいがあります。エイミーさんは「私にはちょっと強すぎるかな。マーティンさんはこれが一番好きらしいけど」ということでした。
その他にも美味しそうなチーズがいっぱいで見飽きることがありません。カウンターの中には英国の王子生誕を記念した特別チェダーチーズも飾ってありました。
チーズにまつわるQ&A
今回の取材ではWhole Foods Marketの渉外ネダさんはじめ、チーズ売り場の方々に大変ご協力頂きましたこと、感謝申し上げます。エイミーさんには別に書面でもチーズに関する質問にご回答頂いたので、最後にこちらに上げておきます。ご回答の中には私が聞いたこともないような名前のチーズが沢山あり、彼女の並々ならぬチーズへの造詣の深さを物語っていますが、ここではそれぞれのチーズの詳しい説明は割愛させていただきます。
~お店についての質問~
Q1. こちらのお店で最も人気のあるチーズは何?
- Fromage De Affinois(フロマージュ・ダフィノア)と
Parmegiano Reggiano (パルメジャーノ・レッジャーノ)
Q2. 地元産チーズで最も人気が高いのは?
- Cowgirl CreameryのMt Tam(マウント・タム)
Q3. 年間を通じて最もチーズの売上が多いのは?
- サンクスギビング(11月末)とクリスマス
Q4. 年間を通じて最もチーズの売上が少ないのは?
- 1月と8月
Q5. 平均的な一日のチーズの売上量は
- 60〜150種類・50〜300 ポンド(23〜137kg)
Q6. お店で最もユニークなチーズは?
- Greyson Washed Rind (グレイソン・ウォッシュトリンドタイプ)
および Vella Dry Jack (ヴェラ・ドライモントレージャック)
(*Vella Dry Jackについては当サイト2010年4月分の五条ミショノウさやかさんのコラムで
詳しく記載されています。ぜひご一読ください。)
Q7. この10年でチーズの販売は伸びましたか?
- イエス
Q8. (乳製品アレルギーの人、または乳製品を食べない人のための)ミルクカゼインやラクトース(乳糖)除去タイプのチーズは何種類取り扱っていますか?
- Kite Hill Cheese社 (ナッツのミルクを主原料とする)より3種類。
その他Follow Your Heart社およびGo Veggie!社より多数出ている。
こちらはナッツ、または大豆が主原料。
Q9. 伝統的な動物性のレンネットを使用したチーズと新しいタイプの植物由来のレンネットの使用割合は?(*カリフォルニアは環境や健康食などに意識が高い傾向があることを踏まえて)
- 米国産チーズの60~80% が植物由来レンネット(チーズを固める時に使う酵素)
を使用しているのに対し、60~80%のヨーロッパ産チーズは動物性レンネットを使用している。
Q10. お店で最もニュータイプのチーズは?
- Hatch Chili Cheddar(ハッチ・チリ・チェダー)
Q11. 味の濃いチーズが好きなお客様へ薦めるとしたら?
- Canadian Black Diamond Cheddar
(カナダのブラックダイアモンド社のチェダー)
またはCabot Clothbound Cheddar(カボット社のクロスバウンドチェダー。
そう、私の友人デビが誇らしく紹介してくれたあのカボット社です。)
Q12. あまりチーズが得意でないお客様へ薦めるとしたら?
- Murray Bridge Mild Cheddar(オーストラリア産マレーブリッジマイルドチェダー)
Q13. カリフォルニア産チーズの特徴は?
- なんといっても地場産なので新鮮。
やはり私たちは地元カリフォルニアのものが大好き。
Q14. お店で最も高価なチーズは?
- Tomme des Templiers (トム・デ・タンプリエ/1ポンドあたり 45.99ドル=100グラムあたり995円)
~ここからは個人的な質問~
Q15. 家族のピクニックに持っていくとしたらどのチーズ?
- ブリー
Q16. フォーマルパーティーに用意したいのは?
- ベイクド・ブリー(後述)
Q17. あなたが最も好きなチーズを3つあげてください。
- Washed rinds – Greyson(ウォッシュトリンドタイプ~グレイソン),
Robiola Rustica(ロビオラ・ルスティカ),
Cabricharme(カブリシャルム)
Q18. 普段どのようにしてチーズを食べていますか?(理想的なペアリングは?)
- スライスしたりんご、ぶどうやクラッカー、またはフランスパンと一緒に
Q19. おすすめチーズレシピはありますか?
- ベイクド・ブリー。作り方はとても簡単!
•ブリー(ホールタイプ)の上に熱湯で軽く下茹でしたクランベリーとキャラメライズドウォールナッツ(砂糖がけのクルミ。通常そのまま食べたりサラダのトッピングに使ったりする)を乗せる。
•フィロ生地(日本ではちょっと手に入りにくいですが、パイ生地のように包み料理に使います。紙のように薄いので、軽くサクサクに仕上がります)で包み、卵を刷毛で塗って約175℃のオーブンで20分焼く。
•トーストしたバゲットと一緒に頂く。
*日本では若干手に入りにくい材料もありますが、2012年12月の私の当コラムで冷凍パイ生地を使ったバージョンを載せていますので、ご参考になさってください。