国際農業見本市 Salon International de l’Agriculture
フランスからの便り 2010~ : UPDATE /
パリ市内の南にあるポルト・ド・ヴェルサイユで年に一回開催される国際農業見本市(*)Salon International de l’Agriculture(以下農業見本市)に行ってきました。
今年2010年は2月27日から3月7日まで9日間にわたって開催されました。
期間中、2月28日から3月3日の4日間に共同開催のチーズ見本市 Salon du fromage が同じ展示会場で行われました。
この二つの催しは、農業見本市が一般向けで年に一回、チーズの方は業者向けに二年に一回催されています。
農業見本市もチーズ見本市も初めて行きましたが、農業見本市の規模、来場者の数、食べ物の匂い、動物の数には圧倒されました。
そこで今回のコラムではチーズ見本市について書く予定を変更して、農業見本市のことを書いてみたいと思います。
この農業見本市は、とてもよく知られたフランスの食のお祭りで、毎年60万人以上の人が、カップルで、あるいは友人同士、または家族連れで訪れます。
農家の皆さんはサルコジよりシラクが好き
先進国の中では、農業に重きをおいているフランスの大統領も毎回農業見本市を視察します。
これを書いている3月5日はシラク前大統領が訪れ、明日の6日はサルコジ大統領が視察するとテレビ、ラジオで伝えています。
見本市出展者の多くが、農業に携わる人達で、“シラキスト”(シラクのファン)がたいへん多いそうです。
毎年見本市を訪れるシラクさんを、農業関係者らは今でも「シラク大統領!」と迎えます。
それに対して、毎回の滞在時間もずっと短いサルコジ大統領は、一昨年の農業見本市視察の際、通行人との汚い言葉の応酬をテレビカメラにキャッチされてしまいました。
そうしたハプニングもあったサルコジ大統領は、不況で農業従事者の収入が減る中、「醒めた」目線の出展者たちに迎えられる可能性があります。
フランス食品大市場
見本市会場はいくつかのパビリヨンに分かれており、私が最初に行ったフランス物産市は2階建てで一番大きな7番パビリヨンにありました。
中はフランスの地方ごとにセクションに分かれています。
セクションごとに観光地図やホテル、民宿の情報をもらえる受付があり、地方料理のデモンストレーションや、観光宣伝を行うステージがあり、あとは、店、店、店です。
チーズ、フォアグラ、鴨のスモーク、ハム、ソーセージ、ワイン、リカー、ビール、果物のジュース、チョコレート、マカロン、ヌガーとほぼ見るものすべてを試食、試飲できます。
食べてみて本当に気にいったものを購入できるというわけです。
フランスのおいしい食品、伝統的食品を一同に集めた、この物産市の規模は圧倒的で、全部見て回るには半日以上はかかります。
中には地方色を出した簡易レストランがいくつかあり、ちょうどお昼ご飯の時間帯、血色のいいフランス人中高年男女が健康な食欲を見せていました。
ランチで20ユーロ前後(約2500円)、飲み物も入れるともう少しかかるので、こうしたお値段のはる
レストランをさける若者たちは会場の隅っこの床にひざを曲げて座り、これも会場で売られている生ハムやパテ、フォアグラ入りサンドイッチをほおばっていました。
上の写真は巨大フライパンに入ったジャガイモ、ベーコン、アンドゥイエットソーセージ(andouillette)、シャウルスチーズ(chaource)、トム・ド・サヴォアチーズ(tomme de Savoie)、生クリーム、シャンパンの入った「ポワレ・アルデネーズ」という料理です。
サーブしているのを見たのですが、これはメインの肉の付け合せでした。
フランス人の健康な胃腸に脱帽!
サロンで出会ったおいしいチーズ
フランスチーズはもちろん農業見本市の華で、すべての地方のチーズが揃っていました。
ウインドウの中にあるけれど試食皿に並んでいないチーズでも、頼めばすぐに切って味見させてくれました。
食べてみて、気に入ったチーズを写真と一緒にお見せします。
真ん中のハーブに包まれたモンタティム(Montatimu)はサリエットとローズマリーのドライハーブ“マキ”(Maquis)で包まれた、フレッシュでしっとりしたかすかに酸味のある羊乳のチーズ
羊の無殺菌乳から作ったチーズにエスペレット唐辛子(これもAOP食品)を塗ったもの
右 バスク地方の山羊乳と羊乳のチーズ 濃厚な味
農業見本市のもう一つの魅力
3月初旬にパリを旅行される機会があれば、毎年この時期に催される農業見本市にぜひ足を運んでみてください。
「味覚」のフランス一周はもちろん、一日に複数のパビリヨンを回れる胃袋と体力があれば、世界一周も不可能ではありません。
フランス物産市以外にも、世界の食品を集め、購入できる世界の物産市のパビリヨン、牛、羊、豚、ヤギ、鶏を見られるパビリヨン、馬、ポニー、ロバ、ウサギ、犬などを見られるパビリヨンなど見所がいくつかあり、1000の出展者と1300頭の動物を全部見て回るには、たっぷり2、3日はかかるでしょう。
ちなみに、ここに連れてこられた動物達の多くが見本市開催中の品評会に出されます。
優勝するなどいい成績を収めた牛、馬には紹介パネルにメダルのマークが張ってありました。
動物達が主役です
フランス物産市を訪ねた次の日に、今度は動物のいる人気の1番パビリヨンを訪ねました。
都会の子供は動物の匂いと牛や馬の巨大さに度肝をぬかれ、「もう行きたくない」となるか、「また行きたい」となるかどっちかだそうです。
いつもなら夜7時までのところ、今日だけ深夜営業で夜11時まで開いていましたので、仕事帰りの夫と一緒に3歳の娘をベビーカーにのせて連れてゆきました。
巨大な牛や夜にもかかわらず食欲旺盛な羊を見た後も、「もうちょっといたい」と言っていました。
これならまた来年も連れて行けそうです。
夜遅くまで人間のお祭りに付き合わされて、動物達はものすごく眠そうでした。
豚は両耳を顔の前にたらして耳も目もふさいで寝ていました。
子豚は元気に走り回ったり、写真のようにおっぱいをチュッチュ。
農業、酪農、畜産という大地と動物と人間の密なかかわりと、それに従事する人の誇りが感じられる見本市でした。
芸術やファッションで語られることの多い国ですが、もう一つのフランスのキーワード、テロワール(Terroir)<郷土、土壌、風土>への強いこだわりを再発見できる面白い訪問となりました。
脚注:
(*)国際農業見本市 Salon International de l’Agriculture サイト
(フランス語と英語)