フランス人が一番食べているチーズは?
フランスからの便り 2010~ : UPDATE /
2月4日付のWeb版フィガロに(*1)チーズに関する記事がありました。
フランス人の最も食べているチーズベスト3に見る嗜好の移り変わりや食べ方の変化を紹介したものです。
この記事への反響として、ニュースサイト(*2)20minutes.frが討論を行いました。
ネットユーザーからの討論へのコメントはさまざまで面白いものでした。
今回のコラムではこの記事の主旨をお伝えし、私なりの考察と討論へのコメントの紹介を含めながら、小文をすすめたいと思います。
フランス人が食べるチーズ ベスト3
フィガロの記事によると、フランス人の好むチーズベスト3に入れ代わりがあったということです。
長年の間フランス人が最も好み、食べているチーズはカマンベールチーズでした。
ところがカマンベールの販売量は、ここ数年間に渡って減り続けているそうです。
そしてカマンベールの代わりにエメンタールが一番食べられているチーズになっています。
フランスで最も食べられているチーズのベスト3(消費量数字はおおよそ) | |
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1位 エメンタール | 21万トン ※一人あたり年間3.2kg |
2位 カマンベール | 12万トン |
3位 (*3)ブリー・ ド・クロミエ |
10万トン |
フランスのエメンタールの消費量は、一人あたり一年間に3.2kgですが、日本では一人当たりのすべてのチーズの消費量が年間2.2kgです。
ちなみに、フランスの一人当たりの年間チーズ消費量は24kgで、EU加盟国の中ではギリシャの29kgについで多くチーズを食べています。
フランスが一位かと思っていましたが、ギリシャなんですね。
中央アジアで発生し、トルコからギリシャに伝わり、その後ヨーロッパ全域に広まったとされるチーズ文化の担い手として、などと構えてはいないでしょうが、ギリシャ人はチーズを多く食べています。
(フランスチーズ消費量データ:lefigaro.fr / 日本の消費量2007年データ:チーズ普及協議会 cheesefesta.com)
チーズの消費量は増えている
フィガロの記事によると、昨今の不況にもかかわらず、チーズの消費量は増えています。
2009年には2.3%、150万トンの増加が見られました。
ただ、食べ方が変わってきているのだそうです。
フランス人の二人に一人は、一日に一度、メインとデザートの間にチーズを食べていますが、フェタやモッツァレラ入りサラダを食事にする人が増えたことで、2009年だけでフェタとモッツァレラの消費量が10%増えました。
モッツァレラだけを見てみても、2000年と2007年を比較して、消費量が2倍以上にも増えています。
また、ハードチーズをおろした、おろしチーズの消費量も、2009年は2.4%の増加がありました。
(データ:lefigaro.fr)
食事の準備と食事にかける時間の変化もあるでのしょう。
メインの料理とデザートの間にチーズを出すというのが、フランスでの伝統的なチーズの食べ方でしたが、チーズを他の食材と合わせて手早く調理し、チーズ入りサラダを食事のメインとして食べることが増えてきていると、乳業業界団体 Cniel(centre national interprofessionnel de l’economie laitiereの略)の広報ロラン・ダミアン氏はフィガロの取材に答えています。
ギリシャ原産のフェタとイタリアのモッツァレラが人気
フェタ、モッツァレラチーズの消費が増えている理由は、パンとフェタ入りサラダやモッツァレラとトマトのサラダなどを「簡単で」「健康的な」食事としてとる若い世代が増えてきていることが考えられます。
料理雑誌やテレビで盛んに紹介された影響もあるでしょう。
料理に使えて便利で安いエメンタール
一方おろしチーズの消費量の増加は、安く、パック入りで便利で、手早く調理できることに加えて、おろしチーズを使った調理済み食品の増加が考えられます。
フランス人はパスタにハードチーズをおろしたものをかけてよく食べますが、エメンタールやコンテのおろしたものをかけている人が多いみたいです。
もちろんパルミジャーノを好む人も少数派ではありませんが。
パスタにふりかける以外にはピザ、グラタンなどのオーブン料理に頻繁に使われます。
結果として、おろしチーズの原材料となっているエメンタールが、フランス人の最もよく食べるチーズになっています。
一説にはエメンタールの80%がおろしチーズとして販売されているそうです。
おろしチーズを使うピザ、グラタンなどの調理済みの冷蔵食品、冷凍食品がスーパーに行くと、アメリカほどではないものの、フランスでも多種並んでおり、エメンタールの消費量はこれからも増えるものと思われます。
我が家では、ハードチーズが余ると、チーズおろしでおろして、料理に使っています。
エメンタールは味の淡白な、香りを楽しむチーズと言われていまして、個人的な意見ですが、おろして売っているものは香りがあまりない気がします。
うちでかりかりとコンテやグリュイエールを削って料理に使うのもいいと思います。
味も濃くて香りもフレッシュです。
あと、これはフランスのネットで見たアイデアですが、いったんおろしたチーズはラップや、ジップロックの袋、タッパーを利用してなるだけ密封して冷凍すれば、凍ったまま料理に使えるし、香りや味の劣化も少ないと言うことです。
いったん凍らせたものは加熱するお料理に使えます。
「凍ったまま料理にポン」がポイントです。
味のはっきりしたゴーダやエダムチーズもおろしてグラタンなどのオーブン料理に使う人もいました。
おいしいカマンベールはどこへ行った?
長い間、フランス人が好むチーズナンバーワンだったカマンベールは、それでも12万トンも食べられているのですが、ここ数年は消費量が減少しているのだそうです。
減少のはっきりとした理由は分かりませんが、カマンベールを取り巻く環境に変化があったことは確かです。
カマンベール・ド・ノルマンディはフランス、ノルマンディ地方原産AOCチーズです。
カマンベール・ド・ノルマンディ(Camembert de Normandie)は伝統的に無殺菌乳(lait cru)を使用して伝統的な製法を守って作られています。
(*4)ところが、マーケットシェアの8割以上を占める大きなメーカー2社が2007年に加熱乳を使用するためにAOC呼称をあきらめたという経緯があります。
衛生面に完璧を期するためにというのが説明ですが、農業製品の品質保証の印としてのAOC呼称をあきらめた背景にコストの削減があると言われています。
確かに、搾乳してから、チーズを製造するまでに数時間しか時間がない無殺菌乳を使用するより、加熱した牛乳を使うことで、搾乳から製造するまでに時間をおけるという大きなメリットもあるでしょう。
無殺菌乳とお玉を使って作られている伝統的なカマンベール・ド・ノルマンディAOCを買い求めることは、フランスにいても難しいのでしょうか?
答えは、そんなことはありません。
今日見に行ってみたら、パリの中型スーパーでも、カマンベール・ド・ノルマンディAOCが売っていましたよ!
でも、熟成士さんが手間暇かけてカーブでチーズを熟成させているようなチーズ店で買うのが、一番の状態のチーズを買う方法でしょう。
無殺菌乳とお玉を使って作られている伝統的なカマンベール・ド・ノルマンディを買い求める時は、以下のような(*5)AOCまたは(*6)AOPラベルがついているかを見てください。
しかしAOCチーズでなかったらおいしくないのかと言うとそんなことはありません。
殺菌乳を使って味わいのあるチーズを作っているメーカーはあるでしょう。
特に60万トンを越えるフランス国外へ輸出しているチーズは、輸出先国の規制にあったものでなければいけないと言う事情もあり、殺菌乳を使って安全性を最重視することが求められているということもあるでしょう。
現在500種類を超えるというフランスチーズの中でAOCチーズは一割以下、40種類ちょっとでしかありません。
多くのチーズのなかから、これからAOC、AOP呼称を得るチーズも出てきますし、広くいろいろなチーズと出会って、食べてみて、好みのチーズを見つけてゆきたいですね。
AOCとAOP農産品についての説明は以下のフランス政府観光局ウェブサイトを参考にしています。
フランス政府観光局
カマンベール・ド・ノルマンディAOCの製造者組合ウェブサイト
(フランス語、英語、一部日本語サイト)
このチーズが大好き
コラムの最後に、フランス人ネットユーザーのお気に入りチーズへの熱いコメントを紹介します。
コメントはニュースサイト20minutes.frからの引用、意訳です。
「カマンベールはもうフランス人の一番好きなチーズではありません。あなたは何のチーズが好きで一番よく食べますか?」
という問いかけに対して寄せられたネットユーザーの意見はさまざまで、よく食べるチーズも違いました。
以下のカタカナと数字の太字はハンドルネームです。
<大胆にもカマンベールを見捨てるということで、全員一致>
ジェンプ「無殺菌乳を使ったカマンベールが見つからなくなってからもう食べていない。味のないチーズを食べるなんて、なんて悲しい。」
ステフ2012「ストップ 殺菌、加熱、ミクロフィルター」
<おらが村のチーズ>
カプシン444「うちのマンステール!においも味も最高レベル」
ポゲタム「ロックフォールが一番」
<一つに決められない人>
コニ「ジャガイモとルブロション、バゲットとボーフォールの組み合わせが最高」
アラヌネット「グリュイエール、ヤギチーズ、エメンタール、中身がトロトロになったルブロション」
マロワルやサン・フェリシアンをお気に入りに挙げる人もいます。
<謎めいた名前のチーズ>
パトゥン281167「僕はカンコワイヨット」
そんな名前のチーズあるの?と調べたら、カンコワイヨット(cancoillotte)、ありました。フランシュ=コンテ地方のチーズでした。
ナヌーは「”有機農法”のクロタン・ド・シャヴィニョール」
クビは「シュウス(chource)かシャン・スール・バース」
<スノッブとは縁のない人>
ムッシュー・プロップのお気に入りは「(*7)フィセロ チーズが糸をひいて、剥きながら食べるのが楽しくって!」
メディ「(*8)ヴァシュ・キ・リは無敵」
<オリジナルなチーズの食べ方>
ヴュー・モター・ク・ジャメのお勧めは「全部チーズの食事。軽いチーズから強いチーズへ移っていくのはどう?パンとワインもそれにあわせて変えていって。おいしいよ。上品と言ってもいい。」
<味の冒険家用レシピ>
シャバーズは「カマンベールをパンに塗って、コーヒーに浸して食べるのが義理の家族が大好きな食べ方」と教えてくれました。
以上の討論へのコメントのまとめは20minutes.frから引用、意訳しています。
参照サイト 20minutes.fr での討論
「カマンベールはもうフランス人の一番好きなチーズではありません。あなたは何のチーズが好きで一番よく食べますか?」
フランスのチーズという食品の位置は特別で、ド・ゴール将軍の言う「246もチーズのある国をどうやって治めたらいいというのか?」という伝説的な台詞を引き合いにだすまでもなく、フランス人なら自国の豊かなチーズ文化を誇りに思う人が多いでしょう。
そんなフランスのチーズ文化も時を経るにしたがい少しずつ変化しています。
このコラムから「フランスのチーズの今」を少しでも身近に感じていただけたら、幸いです。
次回のコラムでは、2年に一度パリのポルト・ド・ヴェルサイユの見本市会場で4日間にわたってチーズ関連企業や店舗が集い、催されるサロン・ド・フロマージュ2010を取材し、もっともっと「フランスチーズの今」をお伝えしたいと思います。
脚注:
(*1)2月4日付 フィガロのチーズに関する記事(フランス語)
「カマンベールはフェタとモッツァレラに野次られた」
(*2)20minutes.frの討論(フランス語)
「カマンベールはもうフランス人の一番好きなチーズではありません。あなたは何のチーズが好きで一番よく食べますか?」
(*3)ブリー・ド・クロミエについて
これはブリーのことと思われます。
前回コラムでご紹介した「ブリー・ド・モーAOC」「ブリー・ド・ムランAOC」などを含む、すべてのブリータイプのチーズを含む消費量データではないでしょうか。
さらにややこしいことに「クロミエ」「ブリー・ド・クロミエ」というチーズは別々に存在します。
どなたが事情をご存知でしたらご教示ください。
(*4)AOCのカマンベール製法のルールの一つに37度以上に牛乳を温めてはいけないというものがあります。
(*5)AOCとはAppellation d’Origine Controlee(アペラシン・ドリジン・コントロレ)の略
AOC統制原産地呼称は、伝統的な製法で作られた高品質の食料品を広く一般の消費者に知ってもらうために作られたフランスの制度
(*6)AOPとはApellation d’Origine Protegee(アペラシン・ドリジン・プロテジェ)の略
AOCのEU版と言ってもよいもので、基本的に同じ役目を果たす。原産地保護呼称。AOPはEU委員会が定めるEU各国においての認証制度です。フランスでのAOC表示はEUのAOP表示に変わってゆきます。
(*7)棒状のチーズで、バナナの皮を剥くようにチーズ全体が剥ける。子どものおやつに食べられている。
(*8)笑う牛のマークのついたプロセスチーズでフィセロと同じく子どものおやつのイメージ